Before
しまむらは、全国に約1,400店舗を展開する国民的衣料品販売チェーンである。低価格帯でトレンドを押さえた商品を提供し、幅広い世代に支持されている。しかし、若年層——特にSNSを中心に情報を得るZ世代——へのリーチ強化が近年の課題となっていた。アパレル小売市場では、大手ファストファッションやEC専門店の競争が激化し、価格競争だけでは差別化が困難になってきていた。
従来の店舗オープンPRは、地域密着型のチラシ配布や既存ファン向けの告知が中心で、SNS上で「バズ」を生むようなインパクトに欠けるケースが多かった。また、実際のファッションモデルを起用した撮影は、キャスティング費、スタジオ費、撮影チームの人件費など、かなりのコストがかかる。限られたマーケティング予算の中で、新店舗の認知を短期間で拡大し、デジタルネイティブ世代の興味を引きつける手法の模索が続いていた。
さらに、SNSのアルゴリズムでは「新しさ」や「議論を呼ぶ要素」が拡散の鍵となっており、 safe な広告クリエイティブだけではオーガニックリーチの獲得が難しい状況にあった。しまむらにとって、コストを抑えつつ話題性とフォロワー獲得を両立させる新しいマーケティング手法が求められていた。
AI導入内容
この課題に対し、しまむらは2024年5月下旬、新店舗のオープンに合わせて生成AIで制作されたファッションモデル「瑠菜(るな)」を起用したデジタルPRキャンペーンを展開した。瑠菜は「服飾専門学校生・20歳」という設定のバーチャルモデルで、Instagramアカウント「lunagram_158」から発信された。
生成AIモデルの制作とキャラクター設計
瑠菜の容姿は、生成AIを用いて詳細にデザインされた。リアルな写真品質のビジュアルを実現し、ファッション雑誌やアパレルブランドのモデル写真と見分けがつかないレベルのクオリティが特徴である。キャラクター設定としては「服飾専門学校に通う20歳」という身近なプロフィールを与え、ターゲットである若年層の共感を呼びやすい仕掛けとなっている。
この生成AIモデルの制作には、画像生成AIと画像編集ツールを組み合わせたワークフローが用いられた。髪型、表情、ポーズ、照明まで細部に調整を加えることで、ブランドイメージに合った一貫性のあるビジュアルを複数パターン生成できる。実際の撮影スケジュールに縛られないため、新店舗オープンのタイミングに合わせた柔軟なコンテンツ配信が可能になった。
SNSを中心とした拡散戦略
しまむらは、瑠菜のビジュアルをInstagramを中心にSNSで公開し、新店舗の商品ラインナップを紹介するコンテンツと連動させた。「これはAIモデルなのか、それとも実在の人物なのか」という視聴者の好奇心を刺激する戦略的な投稿設計により、コメント欄での議論を誘発し、オーガニックな拡散を促した。
実際に、瑠菜の投稿には「るなちゃんメチャ可愛い」「魅惑の微笑みじゃ!」といったポジティブなコメントが多数寄せられた一方で、「生身の人間を応援したい」「なんだか違和感がある」といったネガティブなコメントも集まり、SNS上で賛否両論の議論が巻き起こった。このように「議論を呼ぶ要素」は、アルゴリズム的には高いエンゲージメント率を生み、投稿のリーチ拡大に直結する。
コストとスピードの優位性
実在のモデルを起用する場合と比較して、生成AIモデルの制作は総合的にコストを抑えられる。撮影日程の調整、ロケーションの確保、天候リスクなどがなく、必要なタイミングで必要な数のビジュアルを生成できる。しまむらのような多店舗展開企業にとって、各店舗や各キャンペーンに合わせたローカライズされたコンテンツを低コストで量産できる点は、大きな運営メリットとなった。
After
生成AIモデル「瑠菜」の起用により、しまむらの新店舗PRは予想以上の話題性を獲得した。定量的な効果測定の数値は公開されていないが、キャンペーンは以下の定性的な成果をもたらしている。
SNS上の認知拡大
瑠菜に関する投稿は、ファッション系アカウントやAI関連メディアからも取り上げられ、しまむらの新店舗オープン情報が多くのユーザーに届いた。特にZ世代を中心に、SNSでの口コミ拡散が発生し、ブランドのデジタルプレゼンス強化に寄与した。
ブランドイメージの刷新
低価格帯のファストファッションというイメージにとどまらず、「テクノロジーを活用した先進的な小売企業」という側面が顧客に認知されるきっかけとなった。競合他社との差別化要素として、生成AIを積極的にマーケティングに活用する姿勢は、デジタルネイティブ世代の好感度向上につながっている。
コスト効率の向上
モデル撮影にかかる実費を大幅に削減しつつ、複数のビジュアルパターンを短期間で制作できる体制を構築した。今後のキャンペーン展開においても、同様の生成AIモデルを活用したコンテンツ制作が継続可能となり、マーケティングROIの改善が期待される。
業界への示唆
しまむらの取り組みは、小売業界における生成AIの活用の可能性を示す先駆的な事例となった。アパレルブランドにおけるモデル表現の多様性——実在のモデルとバーチャルモデルの共存——という新しい選択肢を提示し、業界全体のクリエイティブ手法の転換を加速させるインパクトを持っている。
今後、しまむらはこの実績を踏まえ、生成AIを活用したマーケティングをさらに拡大していくことが見込まれる。新店舗PRにとどまらず、ECサイトのモデル写真や季節カタログへの展開も検討されており、テクノロジーとクリエイティブの融合による新しい顧客体験の創出が期待される。
公開日: 2024年6月14日
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