この事例のポイント
Before
共栄産業株式会社は1968年に創業し、当初は輸入腕時計への時計用バッテリー販売を主な業務としていた。時計修理が本業となったのは、大手時計メーカーで「マイスター」と呼ばれた著名な時計職人を取締役として迎えてからである。彼のもとに師事したいと集まる職人が増え、この分野の事業が大きく拡大した。
しかし、知名度が上がり高級時計の修理依頼が多く寄せられるようになった一方、修理部門は人件費がかさみ、月200~400万円の赤字が続いていた。主な理由は不十分な業務管理にあった。
修理待ちの時計はラックに積まれ、そこから職人が選ぶというスタイルで、修理のペースも職人によりまちまちだった。また管理にはデータベース管理ソフトを使っていたが、修理業務全般の状況も、個々の依頼品の状況も、把握が困難だった。職人ごとにバラバラだった修理時間の均質化も進まず、納期の遅延や顧客からの問い合わせ対応に手間取る日々が続いていた。
さらに、修理待ちの在庫が「しばらく仕事がある」という安心感につながっており、実際に売上となる修理完了・納品を重視する意識が薄れていた。在庫の数よりも修理の数を重視する意識改革が求められていた。
ICT導入内容
業態改善のため、自動車メーカーでの生産業務改革経験を持つ外部コンサルタントを招聘し、2年間かけて業務改革を推進した。その上でICTを活用した工程管理を導入した。
バーコードによる工程管理システム
入庫した修理品にバーコードを貼付し、各工程でチェックする仕組みを構築。社内外のPCで修理状況をリアルタイムに確認できるようになり、修理工程が「見える化」された。
業務フロー改善
コンサルタントの指導により、単なるICT導入に留まらない業務そのものの見直しを実施した。
- 修理待ち製品の整理: ラックに積まれた修理品を整理し、納期ごとに色分けラベルを導入。優先順位が視覚的に把握できるようになった
- 定位置管理: 各種工具類の位置を固定化し、職人が探す時間を削減
- ワークフロー改善: 修理品が一定数たまってから次の工程の作業スペースに移動させることで、職人の手間を省力化
- 在庫意識の改革: 「在庫=安心」から「修理完了=売上」への意識転換を推進
分業制の導入
段階的な修理作業の分業制を採り入れ、さらなる効率化を図った。単一の職人が全工程を担当するのではなく、工程ごとに担当を分けることで、作業の均質化とスループット向上を実現した。
品質管理の強化
「修理不完全」による再修理を減らすため、検品チームを設置。しっかり動作確認を行うとともに、再修理となった事例を共有することで、修理工程の精度アップにも取り組んだ。
After
ICTによる工程管理と業務改革の導入により、共栄産業は以下の定量的・定性的成果を達成した。
月200~400万円の赤字 → 黒字化
赤字が続いていた修理部門が黒字化し、売上増を実現した。ICTによる工程管理で無駄をなくしたことが、直接的なコスト削減と生産性向上につながった。
修理対応台数の大幅増
データ化により職人ごとにバラバラだった修理時間の均質化が可能となり、月間の修理対応台数は大きく飛躍した。同じ人員体制でより多くの修理案件をこなせるようになった。
顧客満足度の向上
修理を取り次ぐデパートなどの取引先からも、PCを使い納期が確認できるようになったことで、顧客満足度の向上につながった。納期の透明性が確保され、問い合わせ対応もスムーズになった。
外部評価
この取り組みは「ワークフローをそのままICTに置き換えたのではなく、業務の流れを見直した上でICTを導入した」ことが高く評価され、 2013年「経済産業省 IT経営実践認定企業」 に認定された。また、 経済産業省 中小企業IT経営力大賞 優秀賞(ITコーディネータ協会会長賞) も受賞している。
人材確保
業務環境の改善により、時計職人を目指す若い人材が着々と集まるようになった。職人気質の業界において、ICTを活用した生産性向上は後継者確保という観点からも大きな効果をもたらした。
現在も同社はさらなるICT活用に注力し、時計修理という「職人の世界」において、伝統的な技術と現代のITを融合させた生産性向上モデルを確立し続けている。
公開日: 2018年10月16日
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