Before
個別空調を採用しているオフィスビルでは、ゾーンごとに空調機が設置され、それぞれの空調機が人によって好みの温度に設定できるようになっていた。しかし、在宅勤務やテレワークの進展、フリーアドレス導入などにより、オフィスワーカーの働き方の多様性が広がり、ゾーンごとの滞在人数やパソコン等の稼働熱量は日々大きく変動するようになった。
この変化に対し、従来の空調運転では以下の課題が生じていた。
- 温度ムラの発生:個人による空調温度設定では、日々刻々と変化する多様なニーズに即時に合わせることが難しく、一部エリアが過冷または過暖になることがあった
- 隣接空調機の干渉:隣接する空調機がそれぞれ異なる設定温度を維持しようと干渉し合い、不要な負荷が発生し空調費用が増加
- 即時追従の困難さ:人数や機器の内部熱負荷の変化に、人手による設定変更では追いつけない
- 制御ロジックの複雑化:AIを用いずに多数のセンサーデータで多数の空調機を制御しようとすると、制御ロジックが過剰に複雑化してしまう
東京建物の毎年実施するビル満足度調査でも、「空調温度、湿度の設定・管理」に関するご意見・ご要望が多数寄せられていた。
AI導入内容
東京建物株式会社、株式会社TOKAIコミュニケーションズ、株式会社内田洋行の3社は、東京建物八重洲ビル7階のオフィスフロアにおいて、AIによる空調制御の実証実験を実施した。TOKAIコミュニケーションズは、データセンター事業者向けにAIを利用したサーバールーム空調機の自動制御機能を構築し、空調機電力量を最大30%削減する実績を持つ。
システム構成
本フロアに65個の無線センサーを設置し、39台の個別空調機をAIで統合制御するシステムを構築した。
- 無線センサー:ワイヤレス通信技術を用いて、立って仕事をする場所や座って仕事をする場所など、オフィスワーカーが温度を体感できる位置に配置
- クラウドAI:無線センサーから収集したデータをインターネット経由でクラウド上のAIへ送信。AIが空調機に対する操作指令を送信し、「空調操作の自動化」を実現
- 強化学習モデル:AIは強化学習モデルを利用しており、運用を続けることにより空調制御の精度が継続的に向上する
運用設計
AIの事前学習を行った後、2020年7月27日から11月27日の期間、本フロア全体が26℃を中心に±2℃の範囲を維持するようにシステムを設計・運用した。AIが多量のデータを分析し、手動制御よりも高頻度(6分間に1回)での温度変更を行うことで、環境変化に柔軟に追従する。
After
実証実験の結果、以下の2つの大きな効果を確認した。
夏期:温度ムラの解消
AI制御時には、室内利用状況の変化等により一時的に目標温度帯を外れた場合でも、平均6.4分で目標温度帯に復帰した。一方、人が手動で操作した場合には、20℃に設定して長時間目標帯から外れたままとなるケースが9回発生し、復帰までに平均36.3分を要した。AIによる高頻度な微調整が、温度ムラの解消に大きく貢献した。
秋期:約5割の消費電力削減
10月と11月の秋期において、AI制御を行った7階の空調消費電力は、同規模面積を利用している8〜10階の平均と比べて約50%に抑えることができた。データに基づき不要な暖房を減らすことで、早朝以外は暖房を使わず、ほとんどの時間を冷房モードのみで目標温度帯を維持することに成功した。
今後の展望
四季を通じたAI空調制御の実現に向け、冬期から春期の実証実験や、対象フロアの拡大を予定している。検証結果を踏まえたパラメータ調整を通じ、より快適なオフィス空間の提供と省エネルギーの両立を目指す。
公開日: 2021年1月19日
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