Before
三井不動産はグループ長期経営方針「VISION 2025」の中で「テクノロジーを活用し、不動産業そのものをイノベーション」を掲げ、不動産を「モノ」としてではなく、リアルとデジタルを掛け合わせて「サービス」として提供する”Real Estate as a Service”の実現を目指している。
しかし、社内における生成AIの活用には以下の課題があった。
セキュリティ懸念 パブリックな生成AIサービスを業務で使用する場合、機密情報や個人情報の入力に慎重さが必要であり、自由な活用が困難だった。
活用ノウハウの不足 生成AIはプロンプト(AIへの指示文)の書き方によって回答の質が大きく変わるが、社員全体としての活用ノウハウが蓄積されていなかった。
社内ナレッジのアクセス効率 過去のプロジェクト資料、マニュアル、各種規程等の社内情報にアクセスする際、検索・閲覧に時間を要していた。
DX人材の育成 全社員を対象としたDX推進には、テクノロジーに親しみのない社員も含めて、幅広い層への働きかけが必要だった。
AI導入内容
2023年8月、三井不動産はアルサーガパートナーズ株式会社と共同で、自社特化型AIチャットツール「&Chat(アンドチャット)」を開発し、全従業員約2,500人を対象に運用を開始した。
システム構成
基盤技術
- Azure OpenAI Service:Microsoft Azure上で提供されるGPT-4モデルを採用
- セキュアな社内環境:入力情報を社外の組織に送信することなく利用可能。セキュリティが担保された社内専用環境のみにデータが保管される
- 最新インターネット情報参照:社内環境の安全性を保ちながら、最新のインターネット情報も参照可能
プロンプト集の整備 精度の高い回答を得やすくするため、以下のような汎用性が高い17種のプロンプト集を開発・実装した。
| プロンプト例 | 用途 |
|---|---|
| 文章の要約 | 長文資料の迅速な把握 |
| ビジネス英語に翻訳 | 英文ビジネス文書の作成支援 |
| 何でもわかりやすく説明 | 専門用語の平易な説明生成 |
| 報告書の作成 | 定型フォーマットへの内容整理 |
社内データ連携(RAGの実装)
「&Chat」の真価を発揮させるため、LLMが社内固有の知識を検索・参照できる**RAG(Retrieval-Augmented Generation)**の仕組みを順次導入している。
第1弾:ITマニュアルの連携と検索プロセス
- データのベクトル化:数千ページのITマニュアルやFAQを、Azure OpenAIのEmbedding APIを用いてベクトルデータに変換。
- ベクトルデータベースへの格納:意味情報を保持したままデータベースに蓄積。
- セマンティック検索:社員が「VPNがつながらない」と入力すると、AIが言葉の意味からマニュアルの該当箇所を即座に特定。
- 根拠に基づいた回答生成:抽出されたマニュアルの記述を基に、GPT-4が回答を生成。回答には参照元のリンクも提示される。
セキュリティとデータプライバシー Azure OpenAI Serviceのエンタープライズ環境を活用することで、以下の安全性を確保している。
- データ分離:入力されたプロンプトや社内データは、学習用データとして再利用されない
- ネットワーク隔離:VNet(仮想ネットワーク)経由での接続により、社外からのアクセスを遮断
After
「&Chat」の導入により、三井不動産の社員は以下の業務効率化を実現している。
日常業務の効率化
- 文章の要約:長文の議事録や報告書を短時間で把握可能に
- 翻訳:ビジネス英語への翻訳を即座に生成
- アイデア出し:ブレインストーミングのきっかけとしてAIと対話
- 報告書作成:ゼロから書き始める負担を軽減
活用事例(リリースより)
| 質問例 | AI回答の活用 |
|---|---|
| 「不動産市場の最新動向を教えて」 | 最新のインターネット情報を参照した市場分析 |
| 「ITマニュアルのVPN接続手順を教えて」 | 社内マニュアルからの情報抽出・回答 |
定性的効果
- 業務生産性の向上:定型業務にかかる時間が短縮され、創造的な業務への時間配分が可能に
- 社内ナレッジの民主化:特定の部署やベテラン社員に蓄積されていた暗黙知が、AIを介して全社員にアクセス可能に
- DX文化の醸成:アイデアソン等の施策を通じて、社員全体のDX意識が向上
- お客様体験価値の向上を目指した展開:社内活用を経て、お客様からの問い合わせ対応への活用も検討中
今後の展望 三井不動産は「&Chat」と社内データとの連携をさらに進め、一層の業務効率化を図るとともに、生成AI活用によるお客様の体験価値向上を目指していく方針である。
公開日: 2023年10月10日
事例一覧に戻る