Before
野村不動産ソリューションズが運営する「ノムコム」は、不動産購入・売却を検討する顧客に向けた総合サービスである。従来、顧客が不動産に関する疑問を解消するには、以下のいずれかの方法が必要だった。
- 有人チャット:人員を配置できる時間帯(日中~夜間)のみ対応可能で、夜間はチャットボットに切り替え
- 店舗来店:「めんどうくさい」「しつこく営業されそう」という心理的ハードルが存在
- 自ら情報検索:ポータルサイトの膨大な情報から必要なものを見つけ出す必要があり、必要な情報に到達できないケースも多い
特に不動産取引は人生で数回しか経験しない人が多く、周囲に相談できる人も限られる。「何から聞けばいいかわからない」「調べたいことが明確でない」という状態で情報収集を始める顧客にとって、既存の検索型サービスは使いにくいものだった。
また、従来のルールベースのチャットボットは、想定された質問にのみ対応でき、深掘り質問や文脈を考慮した自然な対話が困難であった。
AI導入内容
2024年7月30日、野村不動産ソリューションズとLIFULLは共同で生成AIを活用した対話型コミュニケーションサービス「ノムコムAIアドバイザー」をリリースした。
システム構成と技術選定
基盤モデル OpenAI社のGPT-4(マルチモーダル対応)を採用。高精度の画像解析能力により、間取り図のOCR・空間認識も可能としている。
RAG(検索拡張生成)によるナレッジ連携 LLMが最新の物件情報を正確に参照できるよう、 RAG(Retrieval-Augmented Generation) の仕組みを導入。LIFULLが運営する不動産情報ポータル「LIFULL HOME’S」の膨大な物件データベースと動的に連携している。
- セマンティック検索:ユーザーの曖昧な入力に対し、ベクトル検索等の技術を用いて最適な物件・情報を特定
- コンテキスト注入:検索された最新物件情報(価格、画像、スペック、周辺相場)をGPT-4の入力コンテキストに差し込む
- 回答生成:最新の外部データに基づき、画像付きで物件を提案。ハルシネーション(嘘の回答)のリスクを大幅に低減
対話フロー設計 「購入相談をはじめる」「売却相談をはじめる」の2つのエントリーポイントを設け、AIが希望条件や課題を構造的にヒアリング。明確な相談内容がある場合は、直接メッセージ入力欄に入力することで即座に回答が得られる。
提供機能一覧
| 機能カテゴリ | 具体的な対応内容 |
|---|---|
| 物件検索 | エリア・価格帯・間取り等の条件指定による物件提案 |
| 街情報検索 | 周辺施設、学区、街の特徴等の情報提供 |
| 間取り図解説 | 画像認識により間取りのメリット・デメリットを解説 |
| 住宅ローンシミュレーション | 年収・返済年数等を入力すると返済額を試算 |
| 周辺相場情報 | 類似物件の価格帯、相場トレンド等の提供 |
開発プロセスの特徴
生成AIの開発には従来のシステム開発とは異なるアプローチが必要だった。
迅速なプロトタイピング 従来のシステム開発は「時間をかけて完成度を上げていく」スタイルだったが、生成AIは「時間をかけずに一定基準まで一気に構築」する特性を持つ。両社は数週間でプロトタイプを作成し、フィードバックを高速で回すサイクルを確立した。
ハルシネーション対策 生成AIの「嘘をつく」リスクに対し、以下の対策を実施。
- ベータ版では「嘘をつかない」を目標に設定
- 他社を攻撃しない、非公開情報を出さない等のガイドライン設定
- 人力によるチェック体制の構築
現場知見の言語化 LIFULLはポータルサイト運営の知見を持ち、野村不動産ソリューションズは実際の営業現場の経験を持つ。この両者の協働により、「顧客が何をどう考えているか」をAIの対話設計に反映させた。
After
ノムコムAIアドバイザーの導入により、以下の効果が実現された。
顧客体験の向上
- 24時間365日対応:人員配置に依存しない自動応対により、いつでもどこでも相談可能に
- 自然な対話:文脈を理解した継続的な対話が可能になり、「渋谷区で5000万円くらいの中古マンションを5つ紹介して」からの「1つ目の物件のメリットとデメリットを教えて」といった深掘り質問にも対応
- ローン試算の即座対応:「年収600万円で35年ローンを組んだら月額はいくら?」といった具体的な質問に、年利0.5%を仮定して月々返済額・年間返済額・総返済額・年間返済負担率まで提示
営業プロセスの変革 従来は「ポータル検索→店舗来店→契約」という流れが主流だったが、ノムコムAIアドバイザーにより「AIで調べつくした上で店舗来店→契約」という新しい顧客行動パターンが生まれた。顧客は来店前に十分な情報収集が完了している状態になり、営業担当との対話がより質の高いものになっている。
今後の展開 両社は以下の機能拡張を検討中である。
- パーソナライズ対応:顧客の属性・嗜好に応じたカスタマイズされた回答
- 音声対応:チャットだけでなく音声による対話
- 感情認識:ユーザーの声・表情から感情を読み取り、寄り添ったコミュニケーション
ノムコムAIアドバイザーは、不動産業界における生成AI活用の先駆的事例として、業界全体のDX推進に影響を与えている。
公開日: 2024年10月10日
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