Before
三井不動産リアルティは全国売買仲介取扱件数33年連続No.1の不動産仲介企業である。多くのマンションオーナーから「今所有しているマンションはいくらで売れるのか」という問い合わせを受けていたが、従来のオンライン査定は経験則に基づく簡易的なもので、精度に限界があった。
具体的な課題は以下の通りであった。
- 査定精度のばらつき:オンライン入力による簡易査定では、立地・グレード・階数・向き等の住戸特性を十分に考慮できず、実際の成約価格との乖離が大きいケースがあった
- カバレッジの限界:対象エリアや物件タイプが限定されており、全国展開の強みを活かした査定サービス提供が困難だった
- 顧客体験の非効率性:正確な査定を得るためには店舗への来店や電話相談が必要で、Web上で即座に情報が得られる体験を提供できていなかった
同社は2016年11月から所有マンションの推定成約価格をWebで提供するサービスを開始していたが、さらなる精度向上とカバレッジ拡大が喫緊の課題となっていた。
AI導入内容
これらの課題に対し、三井不動産リアルティは株式会社エクサウィザーズと共同で「リハウスAI査定」を開発した。本システムの核心は、同社が長年蓄積してきた膨大な成約事例データをAIが学習し、住戸の細かな特性に応じて推定成約価格を算出する点にある。
AIモデルの学習データとアルゴリズム
学習データ
- 三井不動産リアルティグループ1986年度~2018年度の33年間にわたる膨大な成約事例データ
- 全国18都道府県(北海道、宮城県、首都圏、中京圏、近畿圏、中国圏、九州圏)
- 約30,000棟のマンションを対象とした住戸単位の成約価格
アルゴリズムと特徴量エンジニアリング AIモデルには、複数の機械学習アルゴリズムを組み合わせた アンサンブル学習(Gradient Boosting等) を採用。住戸ごとの個別要因を多角的に解析する。
- 立地要因(空間解析):最寄り駅からの徒歩距離、周辺施設(商業・教育・医療)のアクセシビリティ、用途地域、公示地価トレンド
- 建物要因(物理属性):築年数、総戸数、施工会社・管理会社の信頼性、共用部グレード、大規模修繕履歴
- 住戸要因(ミクロ要因):所在階、角部屋・中部屋、バルコニー方位、専有面積、天井高、リフォーム履歴
- 市場動向(時系列解析):エリア別の成約単価推移、在庫状況、金利動向、景気指数
システムアーキテクチャ
入力インターフェース ユーザーは「三井のリハウス」Webサイトで所有するマンション名と部屋番号を入力。最短数秒で解析結果を返すリアルタイムAPI構成。
AI推論エンジン 入力された住戸特性に基づき、過去30年以上の成約事例から類似性の高い物件群を自動抽出。 非線形な価格形成要因(「階数が1つ上がると価格がいくら上がるか」といった複雑な相関) をAIが学習済みモデルで評価し、現時点の適正成約価格を算出する。
精度管理プロセス 定期的に実際の成約価格とAI推定価格を照合し、モデルの再学習(リトレーニング)を実施。市場の急激な変化にも追従できる体制を構築している。
付加情報の提供 推定成約価格に加えて、以下の情報も即時に提供される。
- 周辺エリアの購入検討者数
- 類似物件の成約事例
- 価格トレンド情報
After
リハウスAI査定の導入により、三井不動産リアルティは以下の定量的成果を達成した。
査定精度の大幅向上
- 首都圏1都4県:MER(Median Error Rate:誤差率中央値)4.89%
- 全国(18都道府県):MER 5.34%
MERは機械学習により算出した推定成約価格と実際に成約した価格との差額(誤差)の絶対値を当該成約価格で除した値の中央値である。MERが小さいほど推定精度が高いことを意味し、5%台は業界において極めて高い水準と言える。
この成果は単なる技術的な精度向上にとどまらず、以下のビジネスインパクトをもたらした。
- 顧客体験の向上:Web上で即座に高精度な査定情報が得られるようになり、住み替え検討の第一歩となる情報収集がスムーズに
- 営業効率の改善:事前に正確な価格感を掴んだ顧客との商談になり、商談質が向上
- 売却活動の早期スタート:適正価格の把握により、売却検討から活動開始までのリードタイムが短縮
- 購入物件選定の効率化:売却資金の見込みが立つことで、並行して行う購入物件選定もスムーズに
リハウスAI査定は現在も「三井のリハウス」Webサイトで公開されており、多くのマンションオーナーに利用されている。同社はこのAI査定技術を基盤とし、今後も不動産テック分野でのイノベーションを推進していく方針である。
公開日: 2019年12月16日
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