Before
旭鉄工株式会社は創業80年、年間売上150億円の自動車部品メーカーである。鍛造・ダイキャスト・加工・組付を主力事業とし、長年にわたる現場のカイゼン活動により、2015年比で年間4億円の労務費削減、2013年比で26%の電気使用量削減といった成果を上げてきた。
しかし、長年のカイゼン活動の中で一つの大きな課題が生じていた。カイゼン事例が紙ベースで個人持ちとなっており、「事例が貯まりすぎて探せない」という状況であった。優れたカイゼンアイデアや横展開可能なノウハウが眠ったままとなり、新しい現場の課題に対して過去の知見が活用できないケースが増えていた。
また、熟練者の経験に依存した問題発見や対策立案が主流で、若手作業者が自らカイゼンを起こすためのサポート体制が不十分であった。現場のPDCAを高速化し、カイゼンを「楽しく」して人材育成にも繋げたいというニーズが高まっていた。
AI導入内容
旭鉄工はi Smart Technologiesと協力し、生成AIを活用した2つのDX施策を推進した。
カイゼンGAI(ナレッジマネジメント)
蓄積された膨大なカイゼン事例データから、ChatGPTを活用して必要なノウハウを抽出するシステムである。自然言語で質問すれば、過去の類似事例や改善アイデア、横展開可能なノウハウを瞬時に引き出すことができる。
「カッターを色分けして一目で刃向きをわかるようにする」「部品箱を大きくして収容数を増やし補充回数を減らす」といった、現場の細かな工夫まで含めた数千件のカイゼン事例をデータベース化し、生成AIが自然言語クエリに応じて最適な情報を提示する。
これにより、ベテランの経験に依存しがちだったカイゼン活動が民主化され、誰でも過去の知見を活用して改善を進められる環境が整った。将来的には「カイゼンGAI」としてi Smart Technologiesから外部提供する構想も練っている。
AI製造部長(稼働状況のデータ解釈)
IoTで収集した生産設備の稼働状況データを、生成AIが旭鉄工の視点で解析し、問題点を自然言語で指摘してくれるシステムである。
従来は停止時間やサイクルタイム、電力使用量などのデータを専門家が分析しなければならなかったが、AI製造部長は「このラインの段替え時間が平均より長くなっている」「この設備の電力効率が低下傾向にある」といった、現場の文脈に即したアドバイスを自動生成する。
DXの本質:DよりX(変革)
旭鉄工の木村哲也代表は「DXはD(デジタル)よりX(変革)」と語る。デジタルツールの導入そのものではなく、①問題の見える化、②問題を直す仕組み、③挑戦する風土変革、この3つを同時に進めることが重要だと考えている。
After
生成AIの導入により、旭鉄工の現場では「カイゼンが民主化される」変化が生まれた。
- カイゼンGAIの効果:過去のカイゼン事例が全社員に開かれ、若手作業者でもベテランの知見を瞬時に参照して改善活動に取り組めるようになった。紙ベースで個人持ちだったノウハウが、組織の共有資産として循環するようになった。
- AI製造部長の効果:IoTデータの解釈が自動化され、専門家がいなくても現場の異常や改善ポイントが可視化された。データに基づいたPDCAサイクルが高速化され、生産性向上につながっている。
- 人材育成への寄与:「AIが指摘してくれたから」という形で、若手が自ら問題を発見し解決する経験を積めるようになった。失敗を恐れずやってみる風土が醸成され、現場の人材育成サイクルが活性化している。
この取り組みはNHKニュースでも取り上げられ、製造業における生成AI活用の先進的事例として注目を集めている。旭鉄工の成功体験は、中小製造業企業にとって「大掛かりなシステム投資より、コミュニケーションから始めるDX」という示唆に富むモデルケースとなっている。
公開日: 2024年1月1日
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