Before
花王株式会社は「ハイジーン&リビングケア」「ヘルス&ビューティケア」「ライフケア」「化粧品」のコンシューマープロダクツ事業と、産業界のニーズにきめ細かく対応したケミカル事業を幅広く展開している。多様な製品の製造拠点では、設備の高経年化や人財の高齢化・不足、技術伝承などの課題や環境変化への対応が必要となっていた。
特にグローバルマザー工場である和歌山工場では、多くの品種・運転パターンがあり、複数工程の同時監視など監視負荷が高いケミカル事業のエステル設備において、運転監視の自動化と異常予兆検知の強化が急務となっていた。バッチプロセスは連続プロセスとは異なり、運転パターンが多様で複雑であるため、従来の制御手法だけでは十分な監視が難しく、熟練した運転員の経験と勘に大きく依存していた。
AI導入内容
花王は和歌山工場において、先進的AIによりビッグデータを解析し、プラント運転監視の自動化や異常予兆を検知するシステムを構築した。これがバッチプロセスで初めてビッグデータを用いた異常予兆検知システムの実現であり、今後さらに他の工程への展開や復旧対応にもつなげられる可能性がある。
システムの技術的特徴
本システムは、プラント内に設置された多数のセンサーから収集される膨大な運転データをAIがリアルタイムに解析し、通常の運転状態からの微妙な「振る舞いの変化」を捉えて異常の予兆を早期に検知する。
- バッチプロセス向けビッグデータ解析:連続プロセスとは異なり、多品種・多運転パターンのバッチプロセスから生成される、非定常で複雑な時系列データをAIが解析。
- 異常予兆検知アルゴリズム:通常運転時のデータパターンを学習し、センサー間の相関関係の崩れなど、微小な変化から異常の予兆(異常の芽)を検知。
- 複数工程の同時監視:一人の運転員が同時に監視できる範囲には限界があるが、AIが広範囲の工程を24時間並列で監視し、人間の死角を補完する。
運用への組み込み
検知された異常予兆は運転員に適切な形で通知(アラート)され、早期対処につながる。これにより、事象が発生してから対応する「事後対応」から、異常が顕在化する前に対処する「事前予防(予知保全)」への転換を図っている。
After
この取り組みは高く評価され、一般社団法人日本化学工業協会が主催するレスポンシブル・ケア賞において、最高賞である 「第16回レスポンシブル・ケア大賞」 を受賞した。
受賞理由
- 多品種・多様な運転パターンを持つバッチプロセスで、世界で初めてビッグデータを用いた異常予兆検知システムを実現した点。
- AIによる複数工程の同時監視により、運転員の監視負荷を劇的に軽減し、標準化を実現した点。
- 技術の伝承(熟練者の暗黙知のデジタル化)と生産性向上を高度に両立させた点。
本システムの導入により、和歌山工場では以下の効果が得られた。
- 信頼性の高い異常予兆検知:AIによる継続的な監視で、人間の目では捉えきれない微小な変化を検知
- 大幅な業務負荷削減:24時間体制の目視監視負担が軽減され、運転員がより高度な判断業務に注力できるようになった
- 生産性向上:異常の早期発見・早期対処により、計画外停止のリスクが低減
- 製造技術の伝承と現場力の向上:熟練運転員の経験知をAIが学習し、若手運転員の育成支援にも活用
- 監視業務の標準化による属人化の解消:運転員個人の経験差に左右されない均一な監視品質を実現
花王グループは「豊かな共生世界の実現」をパーパスに、資源や環境への負担が大きい大量生産・大量消費から脱却し、生産性最大化と環境負荷の最小化による持続可能な循環型社会を実現するモノづくりへの変革に取り組んでいる。本AIシステムは、その核となる技術の一つとして位置づけられている。
公開日: 2022年5月30日
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