Before
Swiggyはインドを代表するフードデリバリー・インスタントコマースプラットフォームであり、全国にわたる数十万件のレストランから数千万点の商品を取り扱っている。インドの多様な言語、料理、味覚が混在する市場において、顧客が適切な料理を正確に見つけることは、プラットフォームの中核となる課題だった。
検索クエリは、料理名、カテゴリ、料理のジャンル、調理法、行事、食事制限などが複合的に組み合わさる複雑な構造を持つ。例えば、「健康的な夏向けジュース」や「パンジャブ風カレー」といったクエリに対して、単純な文字列マッチングでは関連性の高い料理を返すことができなかった。また、地域ごとに異なる料理の呼び方や、インド風にアレンジされた国際料理の多様性も、検索の複雑さを増幅させていた。
カタログ側にも課題があった。料理の画像カバレッジが不足しており、メニュー説明文も未整備の状態が多かった。顧客は「Chicken Dominator」ピザやケララ州の朝食「Nool Appam」といった慣れない料理名に直面した際に、どのような料理か判断する情報が不足していた。また、レビューが多数寄せられる中、顧客が膨大なレビューを読んでレストランや料理を評価する負担も大きかった。
レストランパートナー側のサポートも手作業に依存しており、FAQの手動検索や電話対応がボトルネックとなっていた。同社は2023年初頭に生成AIタスクフォースを設立し、これらの課題への対応を本格化させた。
AI導入内容
Swiggyは、データサイエンス、エンジニアリング、戦略チームのメンバーで構成される専門タスクフォースを設置し、生成AIのユースケース探索と優先順位付けを推進した。30社以上のスタートアップ、創業者、VC、大企業と議論を重ね、社内ワークショップやハッカソンを通じてビジネスユニット横断でアイデアを収集した。
ハイパーローカル検索の精度向上(小規模言語モデル)
Swiggyは、ハイパーローカル(顧客周辺約5km圏内)のフードデリバリー検索の関連性向上のため、オープンソースの言語モデル「all-mpnet-base-v2」をベースに2段階のファインチューニングアプローチを採用した。
第1段階:教師なしファインチューニング(ドメイン適応)
過去の検索クエリと実際に注文された料理のアイテム名、カテゴリ、料理ジャンル、調理法などのメタデータを含む99万6,000件のテキストドキュメントを作成。Transformers and Sequential Denoising AutoEncoder(TSDAE)アプローチにより、フードデリバリー検索に特化した言語モデルのドメイン適応を実施した。
第2段階:教師ありファインチューニング(クエリ・料理関連付け)
Swiggyの内部フードインテリジェンス知識体系に基づき、各料理カテゴリに対する複雑な検索クエリと関連料理を手動でキュレーション。LLMを用いたデータ拡張も実施し、30万件以上のQuery-Itemペアを作成してSiameseスタイルの教師ありファインチューニングを行った。Multiple Negatives Ranking Loss(MNR loss)を採用し、検索クエリと料理名の関連性を学習させた。
評価結果
5,000件以上のテストデータセット(5つの国際料理、15のインド地域料理、10以上の食事制限を含む)で評価した結果、2段階ファインチューニングされた「all-mpnet-base-v2」が、MAP(Mean Average Precision)とPrecision@5でベースモデルを上回る性能を示した。特に、疎なハイパーローカル空間(サービス可能なアイテムが密集エリアの約6分の1)でも関連性メトリクスを維持した。
カタログエンリッチメント(画像・テキスト)
画像生成
Stable Diffusionパイプラインを統合し、Text2Img、Img2Img、Image Blendingの3アプローチを探索。特にインド料理に特化したLoRAベースのSDパイプラインを開発し、dosa、curry、Indian breads、biryaniなどの視覚的品質を改善した。また、アスペクト比補正のためのカスタムアウトペインティングパイプラインも構築した。
テキスト説明生成
料理の説明文生成パイプラインを構築し、Swiggyの内部タクソノミーと料理ファミリー別の説明例を用いて生成品質を向上。人間によるレビューループで品質を担保している。
レビュー要約
GPT-4を活用してレストランと料理のレビュー要約を生成。2,000店舗以上を対象としたA/Bテストで、ファネル指標の改善とキャンセル・クレームの削減を確認した。
レストランパートナーサポートボット
RAG(Retrieval-Augmented Generation)パイプラインを実装し、レストランオーナー向けのLLMベースチャットボットを構築。SOP文書に基づいた質問に対し、ヒンディー語と英語の両方でWhatsApp経由で回答を提供する。
After
生成AIの導入により、Swiggyは顧客体験とオペレーションの両面で成果を上げた。
検索関連性の向上
2段階ファインチューニングされた小規模言語モデルの導入により、「gym」というクエリに対して「whey protein」、「healthy bakery items」に対して「multigrain loaf, keto and sugar free brownies」、カルナータカ州の有名なスイーツに対して「Mysore Pak, Chandrahara」といった関連性の高い料理を正確に返せるようになった。Precision@5の向上により、顧客が目的の料理を見つける確率が高まった。
カタログ品質とコンバージョンの向上
画像カバレッジの拡大と料理説明文の充実により、顧客が不明な料理名でも視覚的・文脈的に判断できるようになった。特に地域特有の料理や新規メニューの発見性が向上し、注文の多様性が拡大した。
レビュー要約による信頼性向上
レビュー要約のA/Bテストで、顧客の期待管理が改善され、キャンセルとクレームが減少。迅速な意思決定を支援し、顧客満足度の向上に貢献している。
パートナーサポートの自動化
レストランオーナー向けRAGボットの導入により、FAQの手動検索から解放され、オンボーディングや評価、支払いに関する質問に24時間対応可能になった。サポートチームの負荷軽減とパートナー満足度の向上を両立させた。
運用の教訓
Swiggyは約3〜4ヶ月の反復実験を通じて高ROIの領域を特定した。ハッカソンで「ワウ」と言わせるデモが必ずしも実世界の価値を生む製品にはならないこと、リアルタイムユースケースではカスタムLLMが品質とレイテンシのトレードオフで優位であること、幻覚問題には徹底した内部テストとガードレールが必要であることを学んだ。
Swiggyの取り組みは、多言語・多文化市場におけるフードデリバリープラットフォームの検索とカタログ品質を、小規模言語モデルと生成AIで革新的に改善した先進事例となっている。今後は、Swiggy Instamartへのニューラル検索展開や、コンテンツ生成のさらなる拡大を予定している。
公開日: 2024年3月13日
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