Before
出光興産は、全国にサービスステーション(SS)網を広げる国内最大級の総合エネルギー企業である。同社の燃料油配送部門では、約70名の配車担当者が1日あたり約5,000件の配送オーダーに対応し、最大1,800台のタンクローリーを日々動かしている。配送オーダーには、特約販売店などからの直接発注に加え、需要予測に基づく計画配送も含まれる。
配車計画の作成には、1台のタンクローリーに複数のオーダーを積み合わせる「積み合わせ」調整が不可欠だ。各SSの在庫状況、油種、配送量、車両サイズ、配送時間帯、さらには配送先の個別事情など、無数の制約条件を同時に考慮しなければならない。従来、この高度な判断は配車担当者の経験と練度に大きく依存しており、計画作成には多くの時間と労力を要していた。
この属人化した業務フローは、担当者の熟練度差によって配車計画の質にばらつきが生じるリスクを内包していた。ピーク時には計画作成が間に合わず、エネルギー安定供給に影響が及ぶ可能性も否定できなかった。また、物流業界全体が直面する2024年問題を前にして、人材不足に対する脆弱性も顕在化しつつあった。
AI導入内容
出光興産は、燃料油の配車計画作成業務に「AI需要予測」と「最適化モデル」を組み合わせた新システムを本格導入した。アクセンチュアとの共同開発により、アジャイル手法で現場の配車担当者からのフィードバックを繰り返し取り入れながら磨き上げられた。
3層構成のハイブリッド配車システム
本システムは、以下の3層で構成される「デジタルと人知のベストミックス」を実現している。
第1層:機械学習によるAI需要予測
各SSのレギュラーガソリンや軽油など、油種ごとの販売量データを、XGBoostやLightGBMなどの勾配ブースティング木を中心とした機械学習モデルが解析。季節、曜日、気候パターン、周辺イベント情報などの多次元な変数から、精度の高い需要予測を行う。
第2層:数理最適化モデルによる計画立案
AIによる予測結果をもとに、 数理最適化(混合整数計画法など) を用いて、SSごとに最適な配送タイミングと配送量を算出。数千台のタンクローリーの動態データと1日5,000件のオーダーに対し、配送時間や車両サイズ、道路制約などの膨大な制約条件(Constraint)を満たしつつ、総走行距離やコストを最小化する配送ルートを自動生成する。
第3層:配車担当者による判断・微調整
AIと最適化モデルが出力した配車計画に対し、配車担当者がシステムでは把握しきれない配送先の個別事情を加味して最終調整できる。これにより、デジタルの処理能力と人間の現場知を融合させ、取引先にも満足いただける品質の高い配車計画を維持しながら、作業効率化を両立させている。
現場密着型の開発アプローチ
本システムの開発にはアジャイル開発手法を採用。実証段階から配車担当者が参画し、プロトタイプを作成してユーザーの意見を都度反映させた。導入後も開発者が現場に常駐し、配車担当者の使いやすさを追求する活動を継続している。この現場主義こそが、システム導入後のスムーズな定着を支えた。
After
新システムの導入により、出光興産は配車計画作成の効率化と品質維持という、一見相反する課題の解決に大きく近づいた。
配車計画作成時間:25%削減
AIと最適化モデルによる立案支援により、従来よりも短時間で配車計画を作成できるようになった。配車担当者の練度にかかわらず、一定の計画品質を維持できるようになったことで、属人化リスクも大幅に低減した。
エネルギー安定供給の両立
配車業務の効率化により、約70名の配車担当者が1日約5,000件の配送オーダー、最大1,800台のタンクローリーをより安定的に管理できる体制が整った。これにより、社会インフラであるエネルギーの安定供給と、物流部門の業務効率化という両立が実現している。
物流2024年問題への先行的対応
本システムは、物流業界が直面するドライバー不足や労働環境の変化といった2024年問題を意識した取り組みでもある。デジタル技術を活用した業務効率化は、人手不足に対する柔軟性を高め、持続可能な物流体制の構築に貢献している。
今後も出光興産は、最新技術を積極的に取り入れながら、エネルギーインフラを支える物流の高度化を推進していく。
公開日: 2024年12月1日
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