Before
デジタル庁を含む行政機関では、2023年度以降に生成AIの利活用が急速に注目されてきた。しかし、「100回の会議より、1回のAPI callの方が理解が進む」という認識がある一方で、一般職員が生成AIのAPIを気楽に試すことは困難な状況にあった。調達や利活用に係るガイドラインの整備は進んだものの、実際の業務利用には多くの会議と承認プロセスを要し、アイデアの検証サイクルが遅延していた。
さらに、行政領域での生成AI導入には他組織との間に4段階の障壁があった。段階1は他の組織の成功事例を知らないこと、段階2は導入効果に不明瞭な点がありコストをかけて導入する価値を見出せないこと、段階3は同様のアプリケーション導入方法がわからないこと、段階4は導入方法がわかっても実現コストが高いことである。これらの障壁は、特にすでに他の生成AIサービスを利用している組織において顕著であった。
このような背景の中、職員にとって安心・安全に使える環境の整備が最も重要であった。特に実際の業務利用でほとんど必須となる要機密情報の取り扱いが可能であること、そして業務固有の参照情報を踏まえた業務特化型の生成AIが必要であるという知見が得られていた。しかし、動く状態のプロトタイプを職員に届け、業務の中で実践的な検証を行うまでの移行が課題となっていた。
AI導入内容
デジタル庁は、これらの課題を解決するため内製開発でプロジェクト「源内」を立ち上げた。名称は生成AIの英語略称であるGenAIに由来し、さまざまな生成AIアプリケーションの発明が集まる場としての願いが込められている。源内は、職員が自分の手元で作った業務特化の生成AIアプリケーションを早く・安全に・簡単に実際の業務で使ってもらうための基盤的なアプリケーションとして設計された。
システムアーキテクチャと分離設計
源内では、業務特化の生成AIアプリケーションとヒューマンインターフェースを分離したアーキテクチャを採用している。Amazon Web Servicesの改変可能なオープンソース「Generative AI Use Cases (GenU)」をベースに、外側にマイクロサービスとして構築した生成AIアプリケーションの追加・実行機能と、チーム機能による認可管理を追加開発した。この設計により、AIアプリケーション部分だけを独立した環境で開発でき、源内のWebインターフェースから気楽に呼び出して試行できる。
技術的には、APIリクエストのデータ形式をJSONで定義することで、テキストフィールド・数値フィールド・テキストエリア・ファイル・セレクトボックス・チェックボックス・ラジオボターなどの入力コンポーネントを自動生成する仕組みを持つ。ファイル入出力や会話履歴(疑似チャット)の保持にも対応し、同期処理に加えて非同期処理による大量データ処理も可能である。デジタル庁では、Google CloudのGeminiを用いた行政実務用AIアプリも源内上で実行可能としており、クラウドベンダーに依存しない柔軟性を確保している。
技術検証の3本柱
プロジェクト「源内」では、生成AIアプリケーションの「記述(ドキュメント)」「約束(プロトコル)」「代表的な実装パターン」の3つを技術検証の柱としている。「記述」ではAIエージェントの概要・業務効果・必要データ・権利・セキュリティ上の懸念事項・運用費用・導入時の留意点などの共通ルールを整備する。「約束」では入出力形式・認証認可方法・非同期処理の実現方法・責務分離などのプロトコルを定める。「代表的な実装パターン」では、複数ファイル入出力・非同期大量処理・マニュアル等の特定書類参照・自律再実行による外部リソースアクセスなどのパターンを共通化する。これらの解像度を上げた後、多種多様なステークホルダーと協議を重ねて共通ルール化を目指している。
After
2025年5月からデジタル庁全職員向けに源内を展開し、3か月経過時点の利用実績を公開した。2025年8月に開催された「子ども霞が関見学デー」の「生成AIで学ぶ・考えるワークショップ」では、源内を利用することで準備期間の短縮が実現された。この展開は、直近の職員生産性改善だけでなく、ガバメントAI推進における課題解消も視野に入れた技術検証の一環である。
職員による気軽な生成AI試行の実現
ヒューマンインターフェースと生成AIアプリケーションの分離により、職員は既存の安全なWeb環境から新たな業務特化AIを追加・実行できるようになった。複雑な調達や個別の開発環境構築を待つことなく、業務現場でのアイデア検証が迅速に行える体制が整った。
要機密情報への対応と安全な運用
職員にとって安心・安全に使える環境が整備され、実際の業務利用でほとんど必須となる要機密情報の取り扱いが可能になった。これにより、架空のデモデータではなく、実際の業務データに基づいた生成AIの検証が現場で進められるようになった。
マイクロサービスによる柔軟な拡張
AWSやGoogle Cloudなどの複数クラウド上に構築されたAIアプリケーションを、統合された基盤上で実行可能にした。開発側は業務固有のロジックに集中でき、利用側は統一されたインターフェースから多様なAI機能にアクセスできる。これにより、車輪の再発明を減らし、再開発のムダを軽減する効果が生まれている。
技術検証から共通ルール化への展望
「記述」「約束」「実装パターン」の解像度を上げることで、他省庁や自治体への横展開の障壁を低減する狙いがある。2025年度末には希望する他省庁の職員への展開を視野に入れており、源内のソフトウェアを商用利用可能なライセンスで公開することも検討している。これにより、行政領域全体でのAI利活用の市場拡大と、アクセシビリティを意識したアプリケーションの広がりが期待される。
プロジェクト「源内」は、現在も職員の実践的な利用を通じて検討事項や実装上の工夫を明らかにしながら、ガバメントAIの推進に向けた技術的な基盤を進化させ続けている。
公開日: 2025年11月11日
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