Before
ADPは世界最大級のHuman Capital Management(HCM)企業で、140カ国以上の100万以上のクライアントにHR、給与、福利厚生、タレントマネジメント、勤怠管理ソリューションを提供している。同社のシステムは世界で4100万人以上のワーカーの給与処理を担っており、アメリカの労働者の6人に1人はADPのシステムを使用する企業に勤めている。この圧倒的なスケールは、生成AI導入において大きなアドバンテージと同時に重大な責任を伴う。
ADPが生成AI導入にあたって直面した課題は4つの領域に集約された。第一に、給与や税務アドバイスなど重要領域での品質保証。幻覚や不正確な出力によるリスクを排除する必要があった。第二に、100万社のクライアントデータを預かる知的財産保護。第三に、RAG実装に必要な非構造化データへのアクセスと構造化。第四に、POC段階から本番運用への移行に伴うコスト管理とROIの実現である。
特にコスト管理は、生成AIの実現可能性が証明された今、経営層が請求書に「深いため息」をつくほど重要な課題となっていた。初期の熱狂から、財務的に持続可能な実装へと自然な進化が求められていた。
AI導入内容
ADPは「ADP Assist」という旗艦的な生成AI製品を開発し、プラットフォームをより対話的でユーザーフレンドリーに進化させるとともに、セキュリティと品質を徹底している。同社の指針となるピラミッドフレームワークは、Easy(基本の使いやすさ)、Smart(インテリジェントな機能)、Human(自然な人間らしい対話)の3階層で構成される。
「One Data」と「One AI」のプラットフォーム戦略
ADPのAI戦略は、2つの基盤プラットフォームの構築を中核としている。
One Data Platform:DatabricksのDelta Lakeを広く使用した中央データプラットフォーム。Unity Catalogによるガバナンス、観測可能性、カタログ機能を提供し、AIプラットフォームの土台となっている。
One AI Platform:モデル serving、MLOps/LLMOps、ベクトル検索、RAG Studioを統合した中央AIプラットフォーム。Databricksのエンタープライズプラットフォームが持つ統一的なパーミッション管理により、スケーリングにおける苦痛を大幅に軽減している。
RAG Studioによる検索拡張生成
ADPはDatabricksのRAG Studioと協働し、スケーラブルな検索拡張生成を実現。給与プロセスの簡易化、スマートな分析機能、人間らしいインサイト提供、インテントベースの検索機能を目指している。非構造化コンテンツへのアクセスと構造化は、大規模なデータエンジニアリングの課題として取り組まれている。
品質保証とガバナンスの多重防御
品質保証については、最近メディアでChatGPTライクなツールの誤った回答が問題になった事例を教訓として、適切なガードレールの実装に注力。DatabricksのMosaicチームと協働し、品質測定と達成に取り組んでいる。
ガバナンスはクライアントとリーダーシップの「最優先事項」。「ローグチームが独自のものを構築する」ことを防ぎ、Unity Catalogを通じてベクトルインデックスの統一的な統制を確保している。
コスト最適化戦略
本番運用への移行に伴い、コスト最適化が最前線に浮上。ADPのアプローチは、大規模な汎用モデルの代わりに小規模で専門化されたモデルを立ち上げ、特定のユースケースにファインチューニングし、社内でホスティングして高額な外部API呼び出しに依存しない方針。「オフザシェフ」の高コストモデルからの脱却を進めている。
After
ADPの生成AIイニシアチブは、進行形の旅路ではあるが、明確な方向性と組織的投資の下で着実に前進している。
プラットフォーム統合の推進
One DataとOne AIの2つのプラットフォームにより、データとAIのライフサイクル管理が一元化された。これにより、41百万人の給与データを扱う巨大なスケールにおいても、一貫したガバナンスと品質管理が可能になった。
ビジネスオペレーションの変革
生成AIは製品だけでなく、営業、マーケティング、カスタマーサポート(AI駆動のサービスセンターを含む)などの業務運用にも導入が進んでいる。AIパワードサービスセンターにより、顧客対応の効率化と品質向上が図られている。
データの商業化への展望
ADPは、匿名化・集計化された労働力データから「働き方の世界」に関するインサイトを提供するデータ商業化も視野に入れている。給与とHRデータのパターンを分析することで、業界全体のトレンド分析やベンチマーク提供の可能性を探っている。
組織的投資の深化
Fernando Schwarz VP of AIを中心としたCore AIチームは、組織全体のCenter of Excellenceとして機能し、各事業部門とパートナーシップを結びながら能力を構築。積極的な採用活動を通じて、組織的なAI投資を拡大している。
ADPの取り組みは、給与・税務という高リスク領域において、品質保証、知的財産保護、ガバナンス、コスト管理の4つの課題にどう取り組むかという、エンタープライズLLMOpsの重要なロードマップを示している。
公開日: 2024年6月1日
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