Before
横浜市は人口377万人を誇る日本最大の政令指定都市である。18区に広がる広大な行政区域に、多数の福祉施設・教育機関・インフラが存在し、市民向け行政サービスの規模は日本屈指のものがある。しかし、これだけの規模の組織においては、部局間のシステムサイロ化、手作業に依存する業務プロセス、煩雑な予算編成業務など、デジタル化の遅れが深刻な課題となっていた。
市財政局における予算編成業務は典型例であった。毎年度、各部局から表計算ソフトのデータが提出され、それを手作業で収集・集計・取りまとめていた。「表計算ソフトなので入力ミスはありますし、何度も取りまとめているうちに、計算ミスや抜け漏れが発生することもありました」と財政局の担当者は振り返る。膨大な予算データの転記作業と確認作業に工数が圧迫され、本質的な財政分析や政策企画に割く時間が限られていた。
また、市内18カ所の地域子育て支援拠点では、スタンドアロン型の受付システムが各拠点で独立して稼働しており、紙の入館証に印刷されたバーコードを読み取る仕組みだった。開館時間内に現地に行かなければプログラム予約ができない、活動報告書は手書きで記入し月末にまとめて提出する必要があるなど、働く世代の親にとって大きな負担となっていた。データが各拠点で分散管理されていたため、市全体の利用状況把握やサービスの横断的改善も進まなかった。
2022年、横浜市はこれらの課題を抜本的に解決するため、「横浜DX戦略」を始動。「市民に大切な『時間』をお返しすること、職員の事務を効率化して生み出した時間で必要な人に温もりのあるサービスを提供すること」を目標に掲げ、デジタルプラットフォームの構築に着手した。
AI導入内容
横浜市は「デジタル×デザイン」をコンセプトの核に据え、行政サービスの基盤としてServiceNowを採用した。選定の決め手となったのは、ローコード開発に対応する柔軟性、377万人もの市民が同時アクセスしても処理できる安定性、そしてワークフロー機能による業務プロセスの再構築能力である。
予算・財務情報管理システム(Strategic Portfolio Management)
財政局はServiceNowのStrategic Portfolio Management(SPM)を基盤に、予算・財務情報管理システムを刷新した。
機械学習による予算の高度な分析と予測 ServiceNowのPredictive Intelligenceを活用し、過去の膨大な予算執行データを機械学習で分析。各事業の予算消化パターンやリスク(執行漏れや不足)をAIが事前に検知する。これにより、単純な集計作業を超え、データに基づいた精度の高い財政分析を可能にした。
ツリー構造化された事業データ管理 各部局の事業データが階層的にツリー化され、施策ごと・政策ごとの予算額をシステム上で自動集計。事業の現場が予算見積もりを入力すると、AIが過去の同種事業との整合性をチェックし、リアルタイムに反映される仕組みを構築した。
子育て支援システム(Customer Service Management)
こども青少年局はServiceNowのCustomer Service Management(CSM)を採用し、AIエージェントによる対応を含む18拠点の地域子育て支援拠点システムを全面刷新した。
Virtual Agentによる24時間市民サポート スマートフォンの利用者ポータルには、自然言語理解(NLU)を搭載した Virtual Agent(AIチャットボット) を実装。市民が「離乳食の相談ができるイベントは?」「土日に開いている拠点は?」と入力すると、AIが意図を理解し、18拠点のデータの中から最適な情報や予約リンクを即座に提示する。これにより、開館時間外でも市民が即時に必要な情報を得られる環境が整った。
スマートフォンによる入退館・予約システム 紙の入館証に代わり、スマートフォンの2次元バーコードで入館できる仕組みを実装。AIエージェントが利用者の好みに合わせたイベント情報をプッシュ通知する機能も備え、市民と行政の双方向コミュニケーションを実現した。
活動報告のデジタル化 預かり合いの活動報告書の手書き記入・月末提出が廃止され、スマートフォン上でリアルタイムに入力・送信できるワークフローに変更。保育者の事務負担が大幅に軽減された。
データ統合とリアルタイム共有 18拠点の入退館データ、予約データ、活動報告データが一元管理され、施設運営者と市当局がリアルタイムで状況を共有できる体制を構築。利用傾向の分析やサービス改善への反映が迅速になった。
技術的特徴
横浜市のServiceNow活用には以下の技術的特徴がある。
ローコード開発によるアジャイル開発 プロトタイプを各部局の職員に実際に触ってもらい、要望を吸い上げて改善を図るサイクルを高速で回しながら、短期間で完成度の高いシステムを構築。子育て支援システムは開発開始からわずか8カ月でサービス開始を実現した。
高い安定性とスケーラビリティ 377万人の市民が利用する基盤として、同時大量アクセスに耐える安定性が確保されている。
ワークフロー自動化 申請・承認・通知などの業務プロセスをワークフローで自動化し、人手による業務連携作業を簡素化した。
After
ServiceNowを基盤としたDX戦略の推進により、横浜市は以下の定量的・定性的な成果を達成した。
予算編成業務の効率化
表計算ソフトによる手作業の集計・転記作業が大幅に削減され、データ入力ミスや計算ミスのリスクが低下。「手作業が減った結果、膨大な集計結果の確認作業まで効率化が図られた」と財政局の担当者は評価する。事業評価機能の追加により、政策企画と予算編成の連動によるPDCAサイクルの実現も目前にしている。
市民サービスの利便性向上
子育て支援拠点のシステム刷新により、18拠点の入退館・予約がスマートフォンで24時間365日可能になった。「紙の入館証と違って、スマホなら紛失する心配は少ないですし、イベントなどの情報も拠点に行かなくても受け取ることができます」と利用者からの評価が高い。預かり合いの活動報告もスマホ入力に変わり、「とても楽になった」との声が寄せられている。
職員の業務負担軽減と働き方改革
膨大な紙ベースのデータ管理、エクセルへの集計入力、時間を取る報告業務がデジタル化によって消失。職員はルーティンな単純作業から解放され、子育て支援の企画や遂行、新サービスの開発など、市民に向き合う本来の仕事に時間を創出できるようになった。
データに基づく行政サービスの改善
18拠点のデータが一元化されたことで、利用状況の可視化と分析が可能になった。どの拠点でどのプログラムが好評か、どの時間帯に混雑が生じているかなど、データに基づくサービス改善が進められる基盤が整備された。
将来構想への展開
横浜市は「これからも、市民の皆さんと職員の『時間』を生み出すため、DXを積極的に推進していきます」と今後の抱負を語っている。ServiceNowのワークフロー機能を活用した部局間を超えた業務自動化の推進、さらなる市民サービスのデジタル化が計画されている。377万人の市民と職員の双方に「時間」を還元するデジタルプラットフォームとして、横浜市の取り組みは他の自治体へのモデルケースとなりつつある。
公開日: 2024年4月1日
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