Before
リクルートが運営する「じゃらんnet」は、国内最大級の宿泊予約サイトである。多くのユーザーに利用されているが、宿探しの体験には課題があった。従来の検索フォームでは、場所や日程、人数といった基本情報は入力できても、「リラックスできる雰囲気の旅館」「観光地にアクセスしやすいホテル」といったユーザーの本質的な要望までは捉えきれなかった。
ユーザーのニーズをより迅速に把握し、最適な宿を提案する仕組みが必要だった。しかし、公開されているChatGPTをそのまま使い、そこに社内のデータを上げてしまうのは、セキュリティやガバナンス上の問題が生じてしまう。また当時のChatGPTは動作が不安定で、エンタープライズで使えるものではなかった。
海外のOTA(Online Travel Agency)が生成AIをプラグインとして組み込んだ新しいサービスを開始しており、じゃらんnetでも一刻も早く生成AIを活用した対話型UIを実現すべきだった。しかし、社内データの取り扱いやレスポンス速度、安定性など、企業としての要件を満たすソリューションが求められていた。
AI導入内容
リクルートは、マイクロソフトが2023年1月に発表したAzure OpenAI Serviceの一般提供開始を機に、セキュアかつ高速な生成AI環境の構築を決定した。Azure上で稼働するためデータをインターネットに公開することなく利用でき、安定性も確保できると評価された。
短期間での開発実現
「ユーザーニーズをより迅速に把握する」という目標を明確にしたうえで、2023年3月8日にAzure OpenAI Serviceを活用した対話型UIの開発に着手。わずか2週間で実際に動くものを作り上げることに成功した。その後、生成AIをベースにしたプロダクトのリリース基準などを関係部署と調整し、5月29日にじゃらんnetへの試験的な実装とリリースを実施した。
対話フローの設計
生成AIがユーザーが入力したテキストの内容を分析し、段階的に最適な宿を提案するフローを設計した。
エリア誘発:ユーザーの入力テキストにエリア情報がない場合は、ユーザーにエリアの大まかな候補を絞ってもらうために「エリア誘発」を行う。
エリアアピール文生成:エリア情報が複数ある場合には、これらの候補からさらにエリアを絞り込むために、エリアの魅力を伝えるような「エリアアピール文生成」を行う。
宿アピール文生成:単体エリアまで絞り込まれたら、条件に合致した宿についてその魅力を伝えるための「宿アピール文生成」を行い、宿を提案する。
セキュリティ対策
悪意のある質問入力を行うことで生成AIに意図していない動作をさせる「プロンプトインジェクション」に対しては、「旅行に関係ある質問か」を生成AIで判定してスコアリングしたうえで、スコアが低い場合には「ご要望には答えられません。どのような旅行をご希望ですか?」などの定型文を返すようにしている。
また、Azure OpenAI Serviceはデータ配置場所のコントロールを確実に行うことができるため、セキュリティ面でも安心して使える。コンテキスト内学習で回答を生成し、将来的には社内データを用いたファインチューニングも視野に入れている。
After
Azure OpenAI Serviceの導入により、じゃらんnetは以下の成果を達成した。
開発期間の短縮
わずか2週間で対話型UIの開発を完了させ、迅速にサービス展開を開始できた。これにより、海外OTA(Online Travel Agency)に遅れることなく、生成AIを活用した宿探し機能を提供することができた。
レスポンス速度の向上
OpenAI社が提供しているChatGPTも実験的に使ってみたが、Azure OpenAI Serviceはレスポンス速度が早く、ChatGPTに比べて3分の1の時間で回答を返すことができる。ユーザー体験の向上に直結する高速な応答を実現した。
セキュアな運用
データをインターネットに公開することなく、社内のガバナンスに従って生成AIを活用できる環境を構築。エンタープライズとしての安全性を担保しながら、最新技術を導入することに成功した。
この取り組みは、リクルートの旅行領域における生成AI活用の第一歩であり、今後の機能拡張や他領域への展開の基盤となっている。ユーザーが自然言語で宿探しができることで、従来の検索では見つけられなかった理想の宿との出会いが生まれ、予約体験の質向上に貢献している。
公開日: 2023年5月29日
事例一覧に戻る