Before
HISホテルホールディングスが運営する「変なホテル」は、2015年に長崎県佐世保市のハウステンボス内に1号店を開業した。同ホテルが生まれた背景には、日本の労働人口減少という構造的課題があった。地方都市での人材確保が年々困難になり、ホテル業界においても持続可能な運営モデルの構築が急務となっていた。
従来のホテル運営では、フロント業務(チェックイン・チェックアウト)、客室案内、荷物運搬、清掃、コンシェルジュサービスなど、多くの業務に人手が必要だった。特に100室前後の規模のホテルでは、通常30人弱の従業員が必要とされ、人件費が運営コストの大半を占めていた。また、24時間対応が求められる業務特性から、シフト管理も複雑で、深夜帯や早朝の人員確保も課題となっていた。
さらに、インバウンド需要の増加に伴い、多言語対応も求められるようになった。外国人観光客に対応できるスタッフの確保は容易ではなく、コロナ禍前のピーク時には来客の5〜6割が外国人だったため、言語的な障壁も大きな課題となっていた。
AI導入内容
変なホテルは、これらの課題を根本から解決するため、「変わり続ける」をコンセプトに、AIロボットによる接客を世界で初めて導入した。人手に頼らない「無人ホテル」の実現を目指し、受付から客室サービスまで多岐にわたる業務をロボット化した。
フロント業務の完全自動化
フロントでは、 音声認識と自然言語処理(NLP) を搭載した恐竜型ロボット「未来くん」「希望くん」や、ヒューマノイドロボット「夢子さん」がチェックイン手続きを案内する。来客はロボットのタッチパネルや音声対話で必要事項を入力し、顔認識エンジンによる本人確認を行うことでキーレスで館内を移動できる。チェックアウトも自動精算機で行い、現金でもキャッシュレスでも対応可能だ。
2022年以降の新規ホテルでは、「光のホログラムチェックイン」を導入。赤外線センサーと空中ディスプレイ技術により、壁面に投影された恐竜や侍、忍者、執事などが非接触でチェックインを案内し、客室エレベーターまでの道筋を光で示す。これにより、人型ロボットよりも初期投資やメンテナンス負荷を抑えつつ、エンタメ性と機能性を両立させた。
客室サービスのロボット化
フロント以外にも、客室サービスへのロボット導入を進めた。コミュニケーションロボット「ロボホン」を搭載した「ロボホンルーム」では、音声合成と意図解析による読み聞かせやダンス、クイズなどのエンタメ機能に加え、照明やエアコンの操作、フロントへの連絡も可能だ。ただし、全室展開はせず、ファミリー向けの特定客室に限定している。
また、荷物運搬ロボットの導入も試行した。客の荷物を部屋まで運び、アームを伸ばしてノックする機能を持つが、安全上の理由から高速化ができず、荷物が届くまでに時間がかかるという課題があった。現在はケーキやタオルなど急ぎでない物品のデリバリーに使用している。
清掃ロボットについても試行錯誤を重ねたが、部屋の隅やベッドの下、家具の隙間など細部まで行き届かないことが判明。ホテルの設計段階からロボット清掃を想定していないと難しいと結論付け、現在は人の清掃に戻している。
多言語対応と法的課題への対処
ロボットは英語や中国語など4カ国語に対応しており、インバウンド客の多言語対応もカバーしている。ただし、ロボットによるチェックインが自治体によっては「人が一緒にいなければならない」と解釈される場合もあり、法解釈の地域格差は現在も課題として残っている。韓国では館外からのチェックインが可能で、より先進的な運用が実現している。
After
AIロボットによる業務自動化により、変なホテルは以下の定量的成果を達成した。
人員削減:30人 → 7人(約3分の1の人員で運営)
標準的な100室前後のホテルで通常30人弱必要なところ、変なホテルでは7〜8人で運営できるようになった。各シフト帯でフロントに常駐するのは2名のみで、フロント裏のオフィスで電話対応や予約管理、OTA連携などを行っている。人件費の削減効果は初期投資と継続的なメンテナンス費用を含めても「あっというまに回収できる」規模だという。
生産性向上:4倍
従来のホテル運営と比較し、生産性を4倍に向上させることに成功した。残ったスタッフは、ロボットでは対応できない複雑な問い合わせや、人間ならではの「おもてなし」が求められる業務に集中できる。
この取り組みは「史上初、ロボットが接客するホテル」としてギネス世界記録に認定され、国内外から大きな注目を集めた。変なホテルは日本における「スマートホテル」のパイオニア的存在として、人手不足が深刻化する宿泊業界に持続可能な運営モデルを示した。今後も技術の進化に応じて「変わり続ける」ことを約束し、ホテル業界の未来を切り開いていく。
公開日: 2023年1月25日
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