Before
キリンビール株式会社が展開する人気チューハイブランド「キリン 氷結®」は、2001年の発売以来、累計販売本数2000万ケース(9リットル換算)を超えるロングセラー商品として多くの消費者に支持されてきた。しかし、新商品開発工程において、商品コンセプトの検討段階で課題があった。
新商品開発では、ブランド戦略や過去に発売した商品の動向を参考にしながら、「守るべきところ、変えるべきところ、どう新しく見せられるか」といった新しい商品コンセプトを検討する工程がある。この工程ではお客様に対してインタビュー調査を行っていたが、平均50時間と多くの時間がかかるため、新商品開発期間が長期化する傾向にあった。
従来のペルソナ設定は、マーケティング担当者の経験と直感に大きく依存していた。市場調査や消費者インタビューから得た情報を基に、担当者が手動でペルソナを設定していたが、これらの情報は断片的であり、時系列での変化を捉えることが困難だった。また、複数の担当者が同じデータを見ても、異なるペルソナ像を構築する場合があり、組織内での認識のばらつきも生じていた。
若年層の嗜好の多様化が進む中で、従来の手法では消費者のニーズを的確に捉えきれないケースも増えていた。季節限定商品の開発においては、消費者の「今求めている味」や「どのようなシーンで飲みたいか」といった潜在的なニーズを把握することが重要だが、従来の定量調査では表面的な回答しか得られず、深いインサイトの抽出が難しい状況にあった。
AI導入内容
生成AIペルソナの構築(2023年12月検証開始)
キリンビールは2023年12月、氷結®ブランドをはじめとしたRTD商品の新商品開発工程で、生成AIを活用した「AIペルソナ」の構築・導入検証を開始した。
インタビュー調査から得たお客様の声を生成AIに学習させ、「キリン 氷結®」ユーザーのAIペルソナを構築した。商品コンセプトやフレーバーに対する質問を与えることで、顧客インサイトの抽出を疑似的に行い、商品開発に利用する検証を進めていく予定である。
AIペルソナは、性別、年齢層、ライフスタイル、飲酒シーン、味の好みなど、多角的な属性を持つ。実際の消費者の声を基にしているため、従来の手動設定によるペルソナよりもリアリティがあり、飲酒時の心情や文脈も再現できる期待がある。複数のペルソナを同時に作成できるため、ターゲット層の多様性も表現可能になる。
商品企画へのAI活用検証
新商品のコンセプト立案時に、AIペルソナに対して「この季節に求められている味は?」「新しいフレーバーに対する反応は?」といった問いかけを行うことで、消費者視点でのフィードバックを迅速に得られるようになることを目指す。
- アイデア創出段階: AIペルソナから複数の味の組み合わせ提案や、命名のアイデアを収集
- コンセプト検証段階: 構想した商品コンセプトをAIペルソナに提示し、反応を予測
- 訴求ポイントの精緻化: 各ペルソナに最も響くメッセージを特定し、広告表現に反映
従来データとの統合分析
AIペルソナは、過去の販売データやSNSの声、市場調査データと組み合わせることで、より精度の高い分析が可能になることを見込んでいる。季節による嗜好の変化や、地域別の好みの違いも捉えやすくなり、きめ細かなマーケティング施策の立案を目指す。
After(導入効果の見通し)
調査工数の大幅削減見込み
AIペルソナの導入により、新商品企画における消費者インタビューの実施回数や分析工数が削減される見込み。従来は平均50時間かかっていたインタビュー調査が、AIペルソナとの対話に置き換わることで、数時間程度に短縮される可能性がある。これにより新商品開発期間の短縮が期待され、担当者は分析作業から解放され、クリエイティブな企画業務に更多的时间を割けるようになる。
ペルソナの客観性と再現性の向上
経験に依存していた従来のペルソナ設定と異なり、AIペルソナは実際の消費者データに基づいているため、客観性が担保される。担当者の入れ替わりがあっても、同じ品質のペルソナを再現できるようになり、組織内のナレッジ継承にも寄与する見込み。
消費者インサイトの深化
AIペルソナとの対話を通じて、従来の調査では気づきにくかった消費者の潜在ニーズが明らかになる可能性がある。例えば、「仕事終わりの1杯」に求められる感情価値や、季節ごとの嗜好多様性など、深いインサイトの抽出が期待される。
タイムリーなマーケティング施策の実現
市場トレンドの変化に迅速に対応できるようになる。SNSで話題になっているフレーバーや飲み方に関する情報をAIペルソナに学習させることで、タイムリーなプロモーション施策を立案できるようになる。
今後の展開
キリンビールは、AIペルソナの検証結果を踏まえて、本格導入を検討する。検証を通じて精度向上を進め、時代の変化に応じたペルソナの進化を図る。また、氷結®ブランド以外への展開も視野に入れており、社内のマーケティング活動全体のDX推進に役立てる方針としている。キリングループは長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027(KV2027)」において、イノベーションを実現する組織能力の一つとして「価値創造を加速するICT」を掲げ、DXによる新たな価値創造に継続して挑戦していく。
公開日: 2023年12月19日
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