Before
東京都港区・虎ノ門横丁内に所在する「鮎ラーメン +」は、一夜干しの鮎を丸ごと載せた創作ラーメンを提供する小規模の食事処である。見た目が特徴的な「フィッシュラーメン」は外国人観光客の興味を引く一方、本当に食べられるものなのか戸惑う客も少なくなかった。
導入前は、店の公式HPやネットの画像を見せて「こういう『フィッシュラーメン』なんです」と、片言の英語で説明するに止まっていた。スタッフの語学力に限界があり、鮎の食べ方や店のこだわりを丁寧に伝えることができず、オーダーは単なるルーティンで終わりがちだった。外国人客にとっては「魚の頭がついたままのラーメン」という未知の料理に不安を抱え、食べ残して帰られることも多かった。特にアメリカやヨーロッパからの客は、頭がついたままの魚に馴染みがなく、「You can eat fish.」といくら説明しても、食べやすいところだけ召し上がってあとはほとんど残して帰られることが多かった。虎ノ門横丁は外国人観光客の来店が多いエリアだが、言葉の壁を越えて店のこだわりを伝える手段がなく、インバウンド需要を十分に活かせていなかった。
また、店にはネパール出身のスタッフが1名在籍していたが、日本語が100%わかるわけではなく、業務連絡や価格改定の伝達に時間がかかることも課題となっていた。店長は「伝えたいことが伝わらないもどかしさ」を感じていた。
AI導入内容
ポケトークの導入
虎ノ門横丁での多言語対応検証プログラムに参加し、ソースネクストのAI翻訳機 「ポケトーク」 を導入した。ポケトークは音声をリアルタイムで翻訳し、70以上の言語に対応するデバイスである。英語、中国語、韓国語、イタリア語など、虎ノ門横丁に来店する多様な国籍の客に対応できる。導入当初はスタッフ全員が戸惑っていたが、1週間もすれば誰でも簡単に使いこなせるようになり、職場全体での定着が早かった。
接客での活用
外国人客が来店した際、まず日本語で話しかけ、返答に困っていそうな場合はポケトークを使うフローを確立した。具体的には以下のようなこだわりを母語で伝えるようになった。
- 「スープは鮎のコクを活かしてあっさりさせました」
- 「スープと相性の良いちぢれ麺を絡ませて食べてください」
- 「魚の骨は抜いてあるので、もしお嫌いでなければ丸ごと食べられます」
特に「頭がついたままの魚に馴染みがない」アメリカやヨーロッパからの客に対し、母語で「丸ごと食べられます」と伝えると、安心して残さず食べてくれるようになった。店のバックストーリー(創業者が飛騨高山の「高山ラーメン」を食べて感動し、オリジナル商品を作ろうとした経緯)も母語で伝えられるようになり、接客に深みが出た。外国からのお客様だと「なんでわざわざフィッシュラーメンを作ったんだ?」みたいなこともよく聞いてくださるようになった。
スタッフ間コミュニケーションでの活用
ネパール出身スタッフとの業務連絡にもポケトークを活用。有給システムや価格改定のお知らせ、新メニューについて日本語とネパール語で認識を揃えるようになった。翻訳履歴が残るため、議事録代わりにもなっている。店長のいないところでもスタッフ同士がちゃんとコミュニケーションを取っている実感が持てるようになった。「今日これから雨が降るみたうですね」「傘忘れちゃいました」などの日常会話まで翻訳履歴に残り、職場の雰囲気も和やかになった。
After
ポケトークの導入により、鮎ラーメン +は以下の成果を達成した。
オーダー数が1.5倍に増加
母語でコミュニケーションを取れることで場が和ぎ、客との距離感が近くなった結果、オーダー数は1.5倍ほど増えたという。雑談の流れで牡蠣などのサイドメニューのおすすめも自然にできるようになり、客単価の向上にも寄与している。以前は「フィッシュラーメンだけ」で終わっていた客が、追加でサイドメニューやドリンクを注文するようになった。
接客の深みと顧客満足度の向上
「ただオーダーを取ってお食事をお出しするルーティンだったのが、雑談とも言えるコミュニケーションが発生するようになって、接客の深みが増しました」と店長は語る。帰り際にスタッフ全員に挨拶してくれる客も増え、良い時間を過ごしてもらえている実感がある。SNSへの投稿も増え、口コミによる集客効果も見込める。特に「フィッシュラーメンの写真をSNSに載せてくれる」外国人客が増え、視覚的な拡散効果も大きい。
スタッフ間のコミュニケーション活性化
ネパール出身スタッフとの業務連絡が円滑化し、認識の齟齬が減った。店長は「僕のいないところで、従業員同士でちゃんとコミュニケーションを取っているんだなと安心しました」と語る。ポケトークの翻訳履歴が議事録代わりになり、業務の透明性も向上した。特に価格改定や新メニューの説明時には、翻訳履歴を見返しながら確認できるため、ミスが大幅に減少した。
店舗プロモーションへの応用
店頭で「17:00から19:00まではハッピーアワーでドリンクが半額です」とポケトークの英語音声を流す施策も試したところ、母語が耳に入った客が反応して来店する効果もあった。チラシや張り紙のアイデア出しにも翻訳履歴を活用し、多言語での訴求が可能になった。ポケトークがあることで「貪欲にやりたいことが増えていく」とスタッフのモチベーションも向上している。外国人客からの高評価が口コミやSNSに広がり、新規客の獲得にも繋がっている。特に「鮎の食べ方」を母語で説明できるようになったことで、食べ残しが激減し、食材ロスの削減という副次効果も生まれた。虎ノ門横丁全体の多言語対応推進の一環として、鮎ラーメン+の取り組みは他店舗のモデルケースにもなっている。店長は「ポケトークがあれば、どんな国のお客様でも安心して接客できます」と語り、今後も多言語対応を強化していく意欲を見せている。特に増加傾向にある東南アジアからの観光客に向けて、新しい言語への対応も検討している。ポケトークを通じて、より多くの国のお客様に「鮎ラーメン」の魅力を伝えたい。
公開日: 2023年11月17日
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