キユーピー:AI原料検査装置で食品の安全・安心を革新、検査速度2.5倍を実現

AI画像解析技術で原料検査を自動化し、検査速度2.5倍向上を実現。良品学習型アルゴリズムにより高精度な不良品検出を可能にした。

+2.5 倍検査速度向上
数値の信頼性
公式出典あり
画像AI

この事例のポイント

導入効果
+2.5倍検査速度向上
業種
飲食業
導入分野
生産・製造

Before

キユーピーは「良い商品は良い原料からしか生まれない」を創業理念に掲げる、日本を代表するマヨネーズ・ドレッシング・ベビーフードメーカーである。1919年の創業以来、同社は一貫して原料品質にこだわり続け、現在では国内マヨネーズ市場でトップシェアを誇る食品メーカーとして成長を遂げてきた。しかし、その品質へのこだわりを支える原料検査工程には、長年にわたって解決困難な課題が存在していた。

食品原料であるジャガイモ・ニンジン等の農産物は、その性質上個体差が極めて大きく、形状・色合い・傷の有無などが千差万別である。この自然由来の多様性が、機械による自動検査を困難にしており、多くの食品メーカーでは人間の検査員による目視検査に頼らざるを得ない状況が続いていた。キユーピーでも同様に、多くのスタッフが長時間にわたって原料の目視検査を実施しており、作業負荷が極めて高い状況となっていた。検査員の疲労蓄積は避けられず、人的コストの増大と作業環境の改善が急務となっていた。

さらに深刻な問題として、人間の検査員であっても不良品の20-30%を見逃してしまうという現実があった。つまり検出率は70-80%程度にとどまり、完璧な品質管理には程遠い状況であった。この見逃し率の高さは、経済的損失だけでなく、ブランドの信頼性に直結する重大なリスクを孕んでいた。特にベビーフード等は安全基準が極めて厳格で、わずかな見逃しも許されない。消費者の信頼と安全を守るためには、従来の人的検査では限界があることは明らかで、より高精度で効率的な検査システムの確立が企業存続に関わる重要な課題となっていた。

加えて、食品業界全体では労働力不足が深刻化しており、熟練した検査員の確保も困難になりつつあった。このような複合的な課題に対処するため、キユーピーは抜本的な解決策として、AI技術を活用した革新的な原料検査システムの開発に着手することとなった。

AI導入内容

キユーピーは2016年にAI原料検査装置の開発に着手し、データサイエンス企業のブレインパッドとの戦略的共同研究を開始した。技術基盤には、当時最先端のディープラーニングフレームワークであるGoogleのTensorFlowを採用し、画像認識に最適な CNN(畳み込みニューラルネットワーク) を実装することで、高精度な画像解析による自動検査システムの構築を目指した。

革新的な「良品学習型」アルゴリズムの開発

プロジェクトの核心となったのは、「良品学習型」という業界の常識を覆す革新的アプローチの採用である。従来の機械学習では、良品・不良品の両方のデータを大量に収集し、それぞれの特徴を学習させるのが一般的であった。しかしキユーピーでは、良品のみを学習させ、良品の特徴から外れるものをすべて不良品として検出する逆転の発想を採用した。この手法により、事前に想定できない多種多様な不良パターンを定義する必要がなくなり、これまで見たことのない異常な状態も確実に検出できる汎用性の高いシステムの構築に成功した。

教師なし学習による多品種対応とリアルタイム処理

システムの技術的特徴として、教師なし学習の異常検知アルゴリズムを採用し、多品種の原料に汎用的に対応可能な仕組みを構築した点が挙げられる。製造ラインに戦略的に配置された高解像度カメラが、流れてくる原料をリアルタイムで撮影し、AIエンジンが瞬時に画像解析を実行する。不良品を検出した際には即座にアラートを発信し、該当する原料を自動的に除去するフローを確立した。この一連のプロセスは、2018年8月からベビーフードの冷凍角切りポテト・角切りニンジンで本格導入を開始し、2019年にはグループ会社の惣菜工場にも展開を拡大した。

産学連携による技術的ブレークスルーとインフラ最適化

産業技術総合研究所(産総研)・ブレインパッドとの三者共同研究により、技術的にさらなるブレークスルーを実現した。特に、良品と色味が酷似している形状不良も検出可能な高度な手法を開発し、従来困難とされていた微細な異常の検知精度を大幅に向上させた。同時に、検査環境の改善として高輝度無反射照明システムを独自開発し、VE(Value Engineering)手法を駆使してハードウェアコストの削減も実現した。

データフローとシステム構成の最適化

開発されたシステムは、製造ラインとシームレスに統合されたアーキテクチャを採用している。カメラで撮影された画像データは、エッジコンピューティング環境で前処理された後、クラウド上のAIエンジンで高度な解析が実行される。処理結果は瞬時に製造ライン制御システムにフィードバックされ、不良品の自動除去が行われる。この一連のデータフローは、製造効率を損なうことなく、高精度な品質管理を実現している。

将来的には、同様の原料検査課題を抱える他の食品メーカーへの技術ライセンス提供も検討しており、食品業界全体の品質向上と効率化に貢献することを目指している。

After

AI原料検査装置の導入により、キユーピーは食品業界における技術革新の先駆者としての地位を確立し、劇的な成果を達成した。最も顕著な成果として、検査速度が従来装置比で2.5倍以上に向上し、同時に人間の検査員と同等以上の精度を実現したことが挙げられる。これにより、製造ラインの生産性が大幅に向上し、スループット全体の最適化を実現した。

経済効果も極めて顕著で、1ラインあたり10万ドル(約1,500万円)以上のコスト削減を達成し、プロジェクト期間わずか6ヶ月という短期間で明確な投資対効果を実証した。人件費の削減に加え、不良品の見逃しによる後工程でのロス削減、製品回収リスクの大幅低減など、多面的なコスト効率化を実現している。これらの定量的成果に加え、検査員の作業負担軽減により、従業員満足度の向上と働き方改革の推進にも大きく寄与している。

技術的な先進性と社会的意義が高く評価され、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「人と共に進化する次世代人工知能に関する技術開発事業」に採択されるなど、国レベルでの技術革新事例として位置づけられている。現在はグループ全体への展開を推進中で、キユーピーグループ全体の品質管理水準向上と生産効率化に寄与している。

この成功事例は、食品業界におけるAI活用の可能性を実証するとともに、従来の機械学習の常識を覆す「良品学習型」アプローチの有効性を業界全体に示した。キユーピーは今後も、創業理念である「良い商品は良い原料からしか生まれない」を最新の技術革新によって支え、消費者により安全で高品質な製品を提供し続ける持続可能な生産体制を構築している。同社の取り組みは、日本の食品製造業におけるデジタルトランスフォーメーションの模範例として、業界全体の技術革新を牽引する重要な役割を果たしている。

公式出典あり この事例の効果数値は、企業のプレスリリースまたは公式発表に基づいています。 出典を確認

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公開日: 2020年8月1日

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