Before
レベルファイブは「イナズマイレブン」「レイトン教授」「妖怪ウォッチ」など、数多くのヒットゲームシリーズを手掛ける老舗ゲーム開発会社である。同社のタイトルは、魅力的なキャラクタービジュアルと緻密な世界観が特徴であり、ゲーム本体だけでなくプロモーション用のイラストや映像、Webサイトなど、膨大な画像素材とクリエイティブアセットが必要となる。
従来はこれらの素材を人の手で一から制作しており、特に新作のタイトル画面レイアウト案や、過去作品の資産を踏まえた新規イメージ画像の作成には、熟練クリエイターによる反復試行と微調整が不可欠だった。1つのタイトル画面案を固めるためにも、数十パターンのラフスケッチから最終案を選ぶプロセスが一般的であり、クリエイターにとって時間的・精神的な負担が大きかった。さらに、シリーズ作品では過去の資産を活用しつつ新しい表現を加える必要があるため、デザイン方向性の探索にさらに工数がかかっていた。
開発サイクルの短縮と品質向上が両立して求められる中、効率的な素材作成プロセスの構築が急務となっていた。また、Webサイト制作におけるコーディング作業や、キャラクターの「仮ボイス」収録など、ゲーム開発の前後工程を含めた幅広い業務の効率化も課題となっていた。
AI導入内容
レベルファイブは、政府の「AI時代の知的財産権検討会」に提出した資料の中で、ゲーム開発およびプロモーション業務における生成AIの活用例を公開した。同社は画像生成AI「Stable Diffusion」をはじめとする複数のAIツールを業務に組み込み、制作ワークフローの効率化を図っている。
画像生成AI(Stable Diffusion)によるビジュアル制作支援
Stable Diffusionを活用した主な事例は以下の通りである。
「メガトン級ムサシW」(2024年発売予定): タイトル画面のレイアウト案をAIで複数生成し、そのバリエーションを参考にして世界観に合ったイラストを作成。生成された案をベースに映像も制作し、最終的なタイトル画面に採用した。
「妖怪ウォッチ」シリーズ: 主人公・天野景太の3Dモデルのイメージ画像を作成する際に、過去の作品で使った画像をAIに複数学習させ、さまざまな質感の画像を出力。目指す雰囲気を関係者間で共有する際のコミュニケーション素材として活用した。
「イナズマイレブン」シリーズ: 大観衆や建物群の背景素材をAIで作成し、キャラクターのイラストと合成してイメージイラストを制作。手描きでは膨大な時間がかかる群衆シーンの効率化に寄与した。
その他のAIツール活用
- ChatGPT: キャラクター設定の案出しに活用。初期アイデアのブレインストーミングや、設定資料の整理・要約に使用している。
- VOICEVOX: 開発中のキャラクターセリフの「仮ボイス」収録に活用。ボイスキャストが確定する前の演出確認や、社内プレゼンテーション用の音声素材作成に使用している。
- GitHub Copilot: Webサイト制作作業の効率化に活用。コーディングの補助により、フロントエンド開発の工数を削減している。
同社は、AIが「基礎データの作成」「案出し」「クオリティーアップ」の3分野で有効活用できると結論付けており、AIは人間の創造性を補完するツールとして位置づけている。
After
画像生成AIの導入により、レベルファイブはタイトル画面やイメージイラストの初期案出し段階における工数を大幅に削減できた。AIが複数のバリエーションを瞬時に提示することで、クリエイターは「方向性を探る作業」から「選択とブラッシュアップの作業」にシフトし、創造的な価値創出に集中できるようになった。
背景素材の作成においても、細部まで手描きする必要のある部分とAI生成を組み合わせるハイブリッド制作フローが確立しつつある。AIが生成した下書きをベースに、クリエイターが世界観に沿った調整や演出を加えることで、品質と効率の両立が図られている。
さらに、ChatGPTによるキャラクター設定支援やGitHub CopilotによるWeb制作効率化は、ゲーム開発の前後工程全体にわたる生産性向上に寄与している。VOICEVOXによる仮ボイス収録の効率化も、開発中の演出確認サイクルを短縮させた。
レベルファイブの透明性の高いAI活用公開は、ゲーム業界における生成AIの適切な導入とガバナンス構築の議論にも貢献している。他のゲーム会社にとっても、生成AIをどのように業務に組み込み、クリエイターと協働させるかの参考事例となっている。
公開日: 2023年12月12日
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