Before
スマートフォンゲーム市場では、高品質なイラストや豊富なカードバリエーションが、ユーザー獲得と長期維持の重要な鍵となっている。しかし、従来のゲーム開発では、数百枚から数千枚に及ぶカードイラストを制作するために、多くのクリエイターと長い制作期間を要していた。特に新規IPや中規模タイトルでは、限られたリソースの中で差別化を図ることが求められる一方、コンテンツのスピーディーな供給に限界があった。
また、近年のゲーム業界では、プレイヤー自身がコンテンツ創造に参加できる「共創(Co-Creation)」の価値が急速に高まっていた。SNSでのファンアートの流行や、ユーザーコミュニティによる二次創作文化の盛り上がりを背景に、ゲーム内でプレイヤーの創作を反映させる仕組みが、ユーザーエンゲージメント向上に有効であることが示されていた。しかし、既存のゲーム開発モデルでは、ユーザーの創作物を品質管理しつつゲーム内に組み込むプロセスが複雑であり、スケーラブルな仕組みの構築が課題となっていた。
AI導入内容
株式会社コロプラは、2024年12月に画像生成スタートアップの英Stability AIとのパートナーシップを発表。そして2025年5月には、画像生成AIが作ったカードが実際にゲーム内で使用できるダンジョン探索型カードゲーム「神魔狩りのツクヨミ」をリリースした。
本作の最大の特徴は、「AIカネコ」と呼ばれる画像生成システムである。これは「真・女神転生」「ペルソナ」シリーズに携わってきたゲームクリエイターでイラストレーターの金子一馬氏風のイラストをAIで生成する仕組みで、プレイヤーは自分だけのオリジナルカードを生成することができる。
「神魔狩りのツクヨミ」の主な仕組みは以下の通りである。
AIカード生成システム「AIカネコ」
Stability AIの画像生成モデル(Stable Diffusion系)を基盤とし、金子一馬氏の画風を再現するために「追加学習(Fine-tuning)」および「LoRA(Low-Rank Adaptation)」技術を導入した。金子氏の過去の膨大なイラストデータをAIに学習させることで、同氏特有の「鋭い線画」「独特の陰影処理」「キャラクターデザインのデフォルメ」をプロンプトのみで高精度に出力できる仕組みを構築した。
プレイヤーはゲーム内でテキストプロンプト(呪文)を入力するか、パラメータを調整することで、世界観(サイバーパンク・ファンタジー・神話等)に沿ったカードイラストを秒単位で自動生成できる。生成された画像は、そのままカードとしてゲーム内のダンジョン探索やコマンドバトルで使用可能である。
コミュニティ共創モデル
プレイヤーがAIで生成したカードのうち、特に優れたものや人気の高いものは、プレイヤー投票などのコミュニティ選考を経て、リファイン(人間のプロ絵師による仕上げ・修正)の上で、公式レアカードとして全ユーザーに配布・販売される。これは、AI生成の「スケーラビリティ」と、人間のクリエイターによる「最終的な品質保証」を組み合わせた、新しいゲーム運営モデルである。
品質管理と法的基盤
Stability AIとの公式パートナーシップにより、モデル学習に使用するデータの権利関係を明確化。また、生成された画像の著作権についても、利用規約で定義することで、ユーザーによる二次創作や共有を促進する技術的・法務的な安全性を担保している。画像内の一部を修正する「インペインティング(Inpainting)」技術により、生成AI特有の崩れを最小限に抑えるツールも開発・提供されている。
After
「神魔狩りのツクヨミ」はリリース後、スマートフォン向けアプリストアで一定の評価を得ている。App Storeでは星4.7(レビュー数約7200件)、Google Playでは星4.5(レビュー数約7600件、ダウンロード数5万以上)を記録しており、スマートフォンで遊ぶプレイヤーからは一定の支持を得ている。
一方で、Steamでのユーザー評価は「賛否両論」となっており、生成AIを核としたゲームの受容にはプラットフォームやユーザー層の違いが影響することが示唆された。スマートフォン向けのカジュアルなプレイヤー層と、PCゲーマー層では、生成AIを活用したコンテンツに対する価値観の差が存在する可能性がある。
コロプラの取り組みは、生成AIを単なる「制作効率化ツール」としてではなく、「ゲームプレイそのものに組み込んだ新体験」として提供した先駆的な事例として、業界に大きなインパクトを与えた。ユーザーとAIが協働してゲーム世界を拡張していく「共創型ゲーム」の可能性を示し、今後のゲーム開発モデルの多様化に貢献している。
公開日: 2025年8月1日
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