Before
サイバーエージェントグループは、スマートフォン向けゲームを中心に多数のヒットタイトルを開発・運営する大手ゲーム企業である。近年、生成AI技術の飛躍的な進化により、ゲーム産業全体に大きな変革の波が押し寄せている。グラフィック生成やシナリオ作成にとどまらず、大規模言語モデル(LLM)を活用したAIエージェントによるキャラクターの人間らしい振る舞いの実装など、ゲーム開発のあらゆる工程に生成AIが浸透しつつあった。
しかし、サイバーエージェントのゲーム開発現場では、広告事業で培ったAI技術をゲーム領域に直接横展開することに限界があった。ゲーム開発には、演出設計、レベルデザイン、キャラクター性の表現など、クリエイティブプロセスへの深い理解が不可欠であり、単なる汎用AI技術の導入では十分な効果が得られないケースがあった。さらに、生成AIの不正利用や類似性検知といった著作権保護の観点からも、健全な市場作りに向けた専門的な研究開発が急務となっていた。このような背景のもと、ゲーム特化型のAI研究組織の必要性が高まっていた。
AI導入内容
2023年10月、サイバーエージェントはAI事業本部内に、ゲーム生成AI技術の研究開発を専門とする「ゲームAI Lab」を新設した。これは2016年に設立されたAI技術研究開発組織「AI Lab」と、ゲーム・エンターテインメント事業部のAI戦略本部が共同で設立した専門部署である。
ゲームAI Labでは、以下の3つの領域を中心に研究開発を強化している。
高品質ゲーム開発と新たなユーザー体験の創出
LLM(大規模言語モデル)をゲームのNPC(ノンプレイヤーキャラクター)システムに組み込み、従来の固定型シナリオでは実現し得なかった動的なストーリー展開や、キャラクターの人間らしい振る舞いを目指している。具体的には、外部知識ベースからキャラクターの記憶や世界観の設定を呼び出す「RAG(検索拡張生成)」技術や、キャラクターの性格に基づいた行動選択を可能にする「プロンプトエンジニアリング」を駆使した自律型AIエージェントの研究を推進する。これにより、プレイヤーごとに異なる体験を提供できる「パーソナライズドゲーミング」の実現を目指す。
新世代ワークフロー構築
シナリオ制作、レベルデザイン支援、グラフィック生成、音声合成など、ゲーム開発の各工程を生成AIで再設計する。すでにAI戦略本部では、LLMによる「イベントシナリオ案の自動生成ツール」や、過去タイトルのデータを学習させた「レベルデザイン(ステージ構成)の難易度予測・自動生成支援ツール」の開発を進めており、ゲームAI Labがこれらをさらに高度化する。
著作権保護と健全な市場作り
生成AI技術の研究において、不正利用や、既存の著作物との「類似性・依拠性」を自動検知するモデルの研究を積極的に行い、技術の正しい社会実装および発展に努める。GANやDiffusionモデルにおけるノイズ除去技術を応用し、クリエイターの権利を保護しながら、生成AIを安全に組み込めるワークフローの確立を目標とする。
技術的基盤として、同社は2023年5月に独自の日本語LLMを開発・一般公開しており、広告クリエイティブ制作プロセスでの「極予測AI」等での活用実績を持つ。ゲームAI Labでは、この基盤技術をゲームドメインのテキストデータやアセットデータで「追加学習(Fine-tuning)」させたモデル開発を進めている。
After
ゲームAI Labの設立により、サイバーエージェントは広告事業とゲーム事業のAI技術シナジーを強化する体制を整えた。これまで広告領域で培った極予測AIや日本語LLMの技術資産を、ゲーム開発という異なるクリエイティブ領域に効果的に展開するための専門知見と組織基盤が構築された。
ゲーム・エンターテインメント事業部では、すでにAIを活用したシナリオ制作支援ツールやレベルデザイン支援ツールの開発を進めており、ゲームAI Labを中核に据えることで、より高品質なコンテンツ創出が期待されている。生成AIをゲームそのものに組み込むことで、従来の固定型コンテンツから動的に変化するプレイヤー体験の提供が可能になり、ユーザー一人ひとりに最適化されたエンターテインメント体験の実現に向けた基盤が整いつつある。
中長期的には、ゲームAI Labがゲーム産業の開発プロセス全体の変革を牽引する存在となることを目指している。技術の正しい社会実装と発展に向けた取り組みも並行して進められており、クリエイターとAIが協働する新しいゲーム制作の在り方を業界に提示していく。
公開日: 2024年10月4日
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