Before
川田工業株式会社は、冷凍冷蔵倉庫・食品加工工場・物流施設などの設計施工を得意とする建設会社である。同社が手がけるプロジェクトは、複雑な設備や厳格な温度管理要件を伴うため、施工工程の精緻な計画が品質と工期の両面で極めて重要となる。
従来、工程表の作成は熟練技術者が設計図書(図面、仕様書、見積調書)を読み解き、過去の類似工事データや自社の歩掛(作業標準時間)を参照しながら手作業で行っていた。この作業には1〜2週間を要し、経験豊富な技術者でなければ正確な工程計画を立てることが困難だった。
特に、複雑な冷凍冷蔵設備を伴う大型プロジェクトでは、多数の専門工事が入り組み、工程表作成の負荷はさらに増大していた。熟練技術者が工程表作成に拘束されることで、現場での技術指導や品質管理に割く時間が制限されるという課題も生じていた。また、担当者の経験差による工程表の品質ばらつきや、退職による技術継承のリスクも懸念されていた。
AI導入内容
川田工業は株式会社KENCOPAが開発する建設業務特化型AIエージェント「Kencopa工程AIエージェント」のβ版を導入した。このシステムは、設計図書をAIが読み取り、自社歩掛を学習した上で工程表を自動生成する業務特化型AIエージェントである。
システムの特徴
設計図書の自動読み取り
図面、仕様書、見積調書などの設計図書をシステムにアップロードするだけで、AIが文書内容を解析し、施工に必要な作業項目を抽出する。従来は人間が目視で確認していた図面の読み取り作業をAIが代行し、読み落としや見落としを防止する。
自社歩掛の学習と適用
AIは企業が過去に蓄積してきた設計・工程データを学習し、自社特有の歩掛や施工方法を反映した工程案を生成する。これにより、単なる汎用的な工程表ではなく、川田工業の実務に即した実用的な工程計画が作成可能となる。
対話型の工程調整
AIが生成した工程表は、対話形式で細部を調整できる。技術者は画面を見ながら「この作業の工期を3日に短縮して」「この工序を前倒しにして」といった指示を自然言語で行い、AIがリアルタイムに工程表を修正する。
技術構成
Kencopa工程AIエージェントは、最先端のAIエージェント・フレームワークであるLangGraphを中核に構築されている。
LangGraphによる循環型ワークフロー 従来の直線的な処理(Chain)ではなく、AIが「計画→実行→検証→再計画」を自律的に繰り返すグラフ構造を採用。特に建設工程特有の「クリティカルパスの調整」や「リソース競合の解消」において、AIが複数の制約条件を考慮しながら最適解を探索する。
建設ドメイン特化型RAGとFine-tuning 図面や仕様書の解析には、建設用語や現場特有の文脈を深く理解させた建設特化型LLMを使用。さらに、過去の施工実績や社内の「歩掛標準」をRAG (Retrieval-Augmented Generation) によって参照し、企業固有の施工ノウハウを工程案に即座に反映させる。
Human-in-the-loop (人間による介入) の設計 AIが全ての判断を下すのではなく、LangGraphの「一時停止・再開」機能を活用。AIが生成した工程案の重要な分岐点において、熟練技術者が「承認」または「修正指示」を与えるプロセスを組み込むことで、現場の現実的な制約(天候、近隣対応、特殊機材の空き状況等)を補正できる設計となっている。
After
「Kencopa工程AIエージェント」の導入により、川田工業は以下の成果を上げている。
工程表作成時間の劇的短縮
従来1〜2週間かかっていた工程表作成が、設計図書をアップロードしてから最短15分で完了するようになった。技術者は作成作業そのものではなく、AIが生成した工程案の確認と最適化に注力できるようになり、付加価値の高い業務に時間を割くことが可能となった。
技術継承と品質均一化
熟練技術者の経験やノウハウをAIが学習することで、それらの知見がデータとして蓄積・継承される。担当者の経験差による工程表の品質ばらつきが減少し、どの技術者が担当しても一定の品質水準を確保できるようになった。
複数パターンのシミュレーション
AIは単一の工程表だけでなく、異なる条件下での複数パターンの工程シミュレーションも可能となる。例えば「この資材の納入が1週間遅れた場合」「この専門工事を別業者に発注した場合」といったシナリオで、リアルタイムに工程への影響を確認できる。
川田工業は今後もKENCOPAとの協業を通じて、AIエージェントによる建設業務の効率化を進め、より高品質な施設設計施工を実現していく考えである。
公開日: 2025年12月19日
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